――― サヨナラの練習 4 ―――

 

 

 

ずっと、頭の中が真っ白だった。

 

心の中も、真っ白だった。

 

 

それでもどうにか、リゼンブールまで辿り着くことは出来た。

 

 

 

咄嗟に引っ掴んできたのは、金と上着だけだった。

ウィンリィからの手紙は今頃、リビングの床で冷えているだろう。

 

握り締めた左手は、力んだまま開くことが出来なかった。

 

掌の中の、冷たい指輪の感触だけが、現実味を帯びていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、ノックすることも忘れて扉を開いた。

錆びた金属の軋む音が、やけに大きく響いた気がした。

 

視界が最初に捉えたのは、ウィンリィの姿だった。

リビングのいつもの席に座ったまま、ぼんやり宙を見上げていた。

こんな風になってしまったウィンリィを見るのは初めてだった。

 

あの手紙の意味が、いよいよ現実味を帯びていく。

 

スッと身体から力が抜けて、俺はガクンと膝を付いた。

 

 

 

それからばっちゃんにしっかりしろと叱咤されて、ウィンリィの向かいの席に座る。

二人とも、しばらく無言のままだった。

この居間に限らず、ロックベル家は酷く静かだった。

俺と、ウィンリィと、ばっちゃんの、3人だけ。

 

・・・春の陽だまりのような、暖かくて愛おしい、アルフォンスの気配はここには無かった。

 

 

 

やがて、ばっちゃんが茶を入れて戻ってきた。

けれど口を付ける気は起きなくて、俺は立ち上る湯気を黙って見つめていた。

反対にウィンリィは、カップを手に取って一気に飲み干すと、ガチャンと少々乱暴な手付きで元に戻した。その口から、乾いた笑い声が零れ出す。

 

「・・・あたし、泣き過ぎて涙が枯れちゃった。」

 

あはは、と似合わない笑みを張り付けたウィンリィがようやく俺を見る。

その瞳は、確かに真っ赤になっていた。

それとは対照的に、俺の目からはまだ涙の一滴も零れてはいなかった。

心中も凪いだように静かなままで、どうしてこんなに落ち着いていられるのかは自分でも分からない。

 

 

 

 

「・・・・・・・・・アル、は?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・死んじゃった。」

 

 

 

 

 

ウィンリィの答えは、簡素だった。けれども、それで十分だった。

それは十分すぎるほど、重く意味のある言葉だった。

 

「・・・・・・アルは?・・・今、どこに?」

「・・・・・・きっと天国に逝けたわよ。だってアルは、本当にいい子だったもの。」

 

「・・・・・・そうじゃなくて、・・・アルの身体は・・・」

「天国でお母さんに会えたかな?今頃、色々無茶し過ぎだったって怒られてなきゃいいけど。」

 

ふふ、と笑った幼馴染みは、今度はいつもの顔だった。

 

「・・・ウィンリィ、・・・アルは?」

 

「・・・墓の下、だよ。」

ウィンリィの代わりに、ばっちゃんが答える。

「お前には悪いと思ったが、アルフォンスの葬儀はもう済ませたよ。墓は、お前達の母さんの隣にある。」

 

 

 

「・・・は?・・・なんで?!・・・ッ、ちょっと待て!アルは一体いつ死んだんだ?」

 

よく考えれば、おかしなことだと気付いた筈だ。

なぜ、わざわざ手紙なんかを寄越したんだ?電話の方が早くて確実なのに。

ここから出した手紙がセントラルに着いた時点で、すでに2〜3日は経過しているじゃないか。

なぜ、そんなことをする必要がある?

 

それじゃまるで、俺の到着をわざと遅らせたかったみたいじゃないか?

 

 

 

俺がウィンリィを見据えると、はっきりとした声が返ってきた。

 

「アルが死んだのは4日前よ。葬儀は2日前に行ったわ。・・・それと、これはアルの願いだったの。」

「・・・願い・・・・・・?」

 

「・・・・・・“兄さんには、死に顔を見せたくない”って。」

 

「・・・・・・・・・っ!」

 

「ほんっとー、優しい子よね。アルは。・・・あんたに、自分の葬儀で泣いて欲しくなかったのよ。だから、全部終わった後で、兄さんには連絡して欲しいって頼まれたの。」

「・・・そんな・・・・・・」

 

言葉に詰まる。

アルの想いは、分からなくもない。

けれど死に目にも、死んだ後にさえ会えないなんて、あんまりじゃないか。

 

 

 

「・・・アルは、なんで死んだんだ?もしかして・・」

「事故よ!!」

バンッ、とウィンリィがテーブルを叩いた。

 

「あれは事故だったのよ!・・・アルは、・・・誤って川に落ちたの。・・・すぐに引き上げたけど、あの子、身体が弱ってたから・・・頑張ったんだけど助からなかった。・・・助けられなかった。あたしは医者なのに・・・、何も出来なかった。それが悔しくて、不甲斐なくて・・・っ・・・・・・」

 

はぁ、とウィンリィは大きく息を吐いた。さっき、枯れたと言っていた涙が溢れ出す。

そんなところを見られたくないのか、ウィンリィは顔を背けて俯いた。

 

「・・・とにかく、アルに会いたいのならお墓参りに行ってきなさいよ!・・・でも、いい?墓前でみっともなく泣いたりしないで。これ以上、天国のアルに心配かけるような真似すんじゃないわよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リゼンブールの風はまだ、ひんやりと冷たかった。

 

ウィンリィが渡してくれた花束の中で、アルが好きだった花がふわふわと揺れている。

 

重い足を引きずって墓地へと向かう途中に、何人か顔見知りと擦れ違った。

みなアルの葬儀に参列してくれたらしく、俺の顔を見るなり、慰めや励ましの言葉をかけてくれた。

 

 

 

 

 

青く澄み渡り、雲一つない空。

 

緩やかな風が、静かな墓地の中を吹き抜ける。

 

母さんの墓の隣に、真新しい墓石があった。

そこには、俺のたった一人の弟の名前が刻まれていた。

 

ぱさり、と花束が足元に落ちる。

それから、立って居られなくなった。

 

呆然と座り込み、地面に着いた場所から冷気が侵蝕してくる。

風が頬を撫でた時の冷たさで、俺はようやく自分が涙を流していることに気が付いた。

殆んど無意識の内に、目尻に雫が溜まり、やがて溢れ、頬を伝って落ちていく。

 

何も言葉は浮かんでこなかった。ただ、涙が流れていくだけで。

心をどこかに落っことしてきたみたいに、感情の波がどこにも見当たらなかった。

 

ただ、全てが真っ白だった。

 

 

 

墓石に彫られた“Alphonse Elric”の文字。

 

それに触れようとしたのか、そちらへ左手が勝手に伸ばされる。

すると、握ったままだった掌からふいに力が抜けて、開いた指の隙間から光るものが零れ落ちた。

 

あの、指輪だった。

 

 

指輪は墓石の上で一度跳ねて、カツンと高い音を立てる。

それから少し転がって、アルの名前の前で動きを止めた。

 

俺が、アルに贈った指輪。

アルへの、最後のプレゼントになってしまった。

 

 

ウィンリィはなぜ、これを手紙と一緒に送ってきたりしたのだろう。

これを俺が持っていてもいいのだろうか。

 

 

俺は震える手で指輪を拾い上げると、ようやくまじまじと見た。

すると、俺が贈った時にはなかったものが、あった。

 

指輪の内側に、文字が彫られている。

 

涙で滲んだ視界をなんとかしようとして、袖口で溜まった雫を拭った。

ぱちぱちと瞬きをして、少しの不安に煽られながらも視線を戻した。

 

 

 

 

 

そこに刻まれた文字は、“ありがとう”・・・だった。

 

 

 

誰に?

 

何が?

 

何で?

 

 

頭の中を駆け巡ったのは、それだけだった。

 

それからまた勝手に、涙が溢れ出して止まらなくなる。

 

 

俺に?

 

アルが?

 

ありがとうって?

 

どうして?

 

俺がアルを、禁忌の途へと引きずり込んだのに?

 

 

 

だけどそれでも、そんな相手にさえ、アルは笑ってありがとうを言えるような人間なんだ。

アルは、優しかった。優しすぎるくらいだった。

こんな俺を、許してくれた。

許す以前に、恨んでなどいないと言った。

アルは、たくさんの愛情をくれた。こんな、どうしようもない俺に。

 

・・・これは、離れてもなお俺を想ってくれたアルの心、そのものだろうか。

 

 

優しくて可愛くて愛おしい、アル。

 

 

“ありがとう”を言わなきゃいけないのは、俺の方だ。

 

側に居てくれて、励ましてくれて、叱ってくれて、共に戦ってくれて、愛してくれて、大切に想ってくれて、俺の弟に生まれてきてくれて、ほんとうに、ありがとう・・・アルフォンス。

 

俺は、墓石に軽くキスをした。

 

 

 

あぁ、最後にアルフォンスの顔が見たい・・・。

 

なぁ、それくらいの我が侭は許してくれるだろう・・・?

 

 

 

俺は指輪を大切に大切に、コートのポケットにしまった。

それから、墓石のすぐ側の地面を手で掻いた。

2日前に掘り返されたばかりの土はまだ柔らかく、手でも簡単に穴が広がっていく。

 

俺は自然と口角をつり上げて、笑った。

 

 

 

 

 

・・・まだ、腐乱してないといいんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地面を掘る音、俺の呼吸音、時々吹き抜けていく風の音。

土の匂い。

泥だらけになった俺の手。

 

どれくらい、そうして掘り続けていただろう。

 

 

 

やがて、土とは違う固い感触に行き当たる。

はぁ、と一度息を吐いて、被さっている土を払いのけた。

 

姿を現したのは、質素な木製の棺だ。

 

その表面を、愛しげに撫でる。

 

あぁ、アルフォンス、もう少しだな・・・。

 

 

 

棺の側面に沿って、さらに掘り下げていく。

蓋を開けられる程度まで進むと、自分の手に付いた土埃を軽く落とした。

パンと両手を打ち合わせて、棺の表面に触れる。打ち付けられた釘の部分だけを分解して、棺の天板を少しずらす。

 

また深呼吸をして、ゆっくりと蓋を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蓋を開けて、中を覗き込んで、俺はしばらく現状が理解出来なかった。

 

これは一体、どういうことだ?

俺は棺の中に手を突っ込んで、それを掬い上げた。

 

掌の隙間からさらさらと零れていくそれは、間違いなく、ただの土だった。

もう一度、棺の中に手を入れて、必死になって掻き回してみても、手に触れるのは滑らかな土の感触だけだった。

 

棺の中に、あの輝くような金の髪も、白磁のような美しい肌も見当たらない。

その欠片さえ、見つからない。

 

 

 

 

 

遺体が土になったって?

 

たった4日で?

 

そんなバカな!

 

なぜ?

 

なぜ??

 

どうして?

 

どうして、こんなことに?!

 

・・・アルは?

 

アルフォンスは?

 

アルは一体どこにいるんだ?!

 

なぁ、どうして・・・?!

 

 

 

 

 

最後に、アルフォンスに会いたかった。

ちゃんと顔を見て、お別れがしたかった。

 

そうすれば、この先は泣かなくても済むだろうと思ったのに・・・!

 

 

 

どうして、アルフォンスはいない?

 

なぜ、神様はこんなにも俺とアルフォンスを引き離す?

 

あぁ、どうして・・・?!

 

 

 

止まっていた筈の涙が、再び溢れ出す。

頬を伝い、零れた雫は、土塊だけの中身のない棺へと吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

棺の蓋を閉じて、元通りに土を被せる。

 

それから、ロックベル家に帰った。

 

ただ、帰り道の記憶は殆んど無い。

 

“あれは、誰の墓だったんだ?”

 

疑問符ばかりが、心を支配していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

土埃で汚れた俺を見て、ウィンリィは顔色を変えた。

 

「・・・あんた、それ・・・まさか・・・」

「・・・あぁ。・・・アルの墓、掘り返した。」

 

淡々とした俺の声に、ウィンリィはますます青ざめる。それからこっちに駆け寄ってきて、ガクガクと俺の肩を揺さぶった。

 

「ねぇ、なんでよ?!死者の人体錬成は不可能だって、あんた達、十分すぎるほど知ってるじゃない!それなのにっ・・・」

「・・・人体錬成?」

 

呟くような俺の声に、ウィンリィはハッとして動きを止めた。

 

「・・・違うの?」

 

困惑顔でこちらを見つめる幼馴染みと同じように、俺も言われた意味を図りかねてしばし考えた。

 

・・・人体錬成?

 

 

・・・あぁ、そうか。

 

 

 

「・・・ははっ、確かに。昔の俺なら、真っ先に墓でも何でも掘り返して、魂の情報を手に入れて、人体錬成しただろうなぁ。代価に俺の命、使ってでも、アルを蘇らせようとしただろうよ。」

 

ニヤリと笑った俺にますます困惑したのか、ウィンリィは手を離して二、三歩後ずさる。

 

「・・昔のあんたは?・・じゃあ、今のあんたは違うって言うの?」

「あぁ。・・・お前に言われるまで、人体錬成のことなんか忘れてたぜ。」

 

ウィンリィは、信じられないといった表情で俺を見ている。

でも、言ったことは本当だ。

死者はどうやったって、蘇らない。

人体錬成は不可能だと分かっている。

 

それに、アルは・・・。

 

「・・・“例え僕が死んでも、人体錬成だけはしないで。もしやったら、僕は兄さんのことを嫌いになる。”」

 

「・・・・・・・・・そう、アルが言ったの?」

 

「あぁ。・・・だから絶対しないって、アルと約束したんだ。」

「・・・・・・信じられない。あんたが、そんな口約束を守るなんて・・・・・・」

「・・・おい、お前の中の俺は一体どうなってんだ?」

「だって・・・・・・」

 

「俺は、アルに嫌われたら生きていけない。ただ、それだけだ。」

 

「・・・・・・っ!」

 

少しだけ、ウィンリィが苦い顔をした。

 

この数ヶ月間、俺がアルと別れても生きていられたのは、アルが、どんな形であれ、俺を好きでいてくれたからだ。

 

「・・・じゃあ、なんでそんなことしたのよ?」

 

俺は視線を下げて、土に汚れた自分の手を見た。

 

「・・・俺はただ、アルに会いたかったんだよ。・・・アルが、もう・・・生きていないとしても。・・・冷たかろうが、腐乱してようが、白骨化してようが構わなかった。とにかくもう一度だけアルに会って、ちゃんとお別れしたかったんだ。・・・そうじゃねぇと、気持ちの整理も何もつかねぇだろ・・・。」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

 

「・・・ウィンリィ、お前アルをどこへやったんだ?俺が人体錬成するかもしれねぇから、隠したのか?だから、葬儀にも呼ばなかったんだろ?!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

「確かに、アイツの妻はお前だ。最期を看取ってくれたんだし、俺が文句を言う筋合いなんか無い。けど、アルは俺にとってたった一人の家族なんだぞ!それなのに、こんなのってあんまりじゃねぇか!」

 

そこまで一気にまくし立てて、はぁ、と大きく息を吐いた。

ウィンリィは、俯いて黙ったままだ。何か、躊躇うような気配があって、一瞬唇が動いたような気がした。けれどすぐに、耐えるようにぎゅっと引き結ばれた。

 

「・・・・・・・・・汚れたから、風呂借りるわ。・・・出てきたら答え、聞かせてもらうからな。」

 

俺はウィンリィの横を通り過ぎて、居間から出て行った。

 

 

 

 

 

温かいシャワーを浴びて、強張っていた身体がようやくほぐれた気がした。

 

あの様子じゃ、ウィンリィは絶対に何か隠しているだろう。

アルの身体のことはもちろん、他にも何か・・・。

 

それにしても、俺ってスゲー信用無かったんだな。

まぁ、ウィンリィは・・・、他の奴らより俺のアルへの執着心を知っているから、そんな風に思われたって仕方ないのかも知れない。

 

あぁ・・・、俺はアルに会いたいだけなのに・・・。

駄目だなぁ・・・、近頃はホント、擦れ違ってばっかりだ。

 

ようやく、アルとの関係もうまくやっていけそうだと思ったばっかりなのに。

肝心のアルがもう、いないなんて。

 

兄さん・・・、と俺を呼ぶアルの顔が浮かんで、消える。

 

 

 

アルの、・・・最期は、どうだったんだろう。

 

川に落ちたと、言っていたから・・・、冷たい思いをしただろうか。

それとも、熱が出て熱い思いをしたのだろうか。

溺れたのだとしたら、息苦しい思いをしたのかもしれない。

それとも、痛かった?苦しかった?辛かった?

あるいは、ウィンリィが楽に逝かせてあげたのだろうか。

 

 

 

いつも、アルばかりが辛い目にあう。

 

鎧の体の時も、人体錬成後のリハビリの時も、代われるものなら俺が代わってやりたかった。

 

・・・今だって。

 

俺なんかより、アルが長生きすべきだった。

 

今まで辛い思いをしてきた分、これからはアルにとって楽しいこと、幸せなことがたくさん起こるだろうと思っていた。

家族が増えて、良い父親になって、たくさんの人に愛されて、幸せに生きて欲しかった。

 

アルはようやく、俺からも、禁忌からも自由になれたというのに・・・。

神様というヤツは、本当に意地が悪い。

 

アルフォンスに、生き返って欲しいと思わないわけじゃない。

でもそれは不可能だと、何を差し出したって一度失った命は戻らないと分かっている。

だったら、俺が考えなきゃいけないのはこれからのことだ。

 

 

俺はまだ、生きているから。

 

 

アルだって、俺に生きて欲しいと思っているはずだ。

人体錬成をするなといったのは、つまりそういうことだろう。

 

だから、俺はこれから先も生きなきゃいけない。

だから、アルとは一度、お別れをしなきゃいけないんだ。

 

けれどそれで、俺のアルへの気持ちが変わるわけじゃない。

アルが生きていても、死んでしまっていても、俺はアルを愛してる。

 

今までにアルがくれたものを抱えながら、俺は明日も変わらず、アルを愛しながら生きていくんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウィンリィと俺が、居間で向かい合わせに座っている。ばっちゃんは席を外してくれていた。

 

「・・・ウィンリィ、アルはどこにいる?」

「・・・・・・あんたが人体錬成するかもしれないから、・・・別の場所に埋めたの。」

 

「・・・へぇ?どこに?」

「・・・あの、よく3人で遊んだ森の中の・・・、湖のところ。大きな木があったでしょ?あの前に・・・」

 

「・・・へぇ?じゃ、今から行って、掘り返してくる。」

 

がたんと椅子を鳴らして俺が立ち上がると、ウィンリィが慌てた顔をする。

 

「ちょっ、・・・ま、まだ見ないと納得できないの?」

「・・・・・・・・・。」

 

はぁ、と大げさに溜め息をついて、俺は席に戻った。

 

「・・・お前、嘘付くの下手なんだよ。目が泳いでんの、自分でも分かってんだろ。」

 

そう指摘すると、ウィンリィはなんともいえない顔をした。

ぎゅっと口を結んだまま、今度は黙秘するらしい。

 

「・・・・・・さっき、アルが使ってた部屋に入った。」

「・・・・・・・・・。」

 

「・・・部屋が、片付きすぎてる。」

「・・・・・・・・・。」

 

「・・・葬儀から、たった2日であれは不自然だろ?本棚もクローゼットも机の中も、アルの私物が全部無くなってた。」

「・・・・・・・・・。」

 

「・・・・・・・・・。」

「・・・それがなに?あたしが片付けただけよ。」

 

「・・・悪いけど、お前の部屋にも勝手に入った。」

「・・・・・・え?」

 

「・・・部屋にはいくつか、小さなダンボールの箱があった。蓋が閉まってたから、中身は見てねぇ。けど、外側に文字が書かれてた。」

「・・・ちょっと、・・・待って・・・・・・」

 

「・・・文字は、“本”、“服”、“燃えるゴミ”、“燃えないゴミ”・・・。中身は全部、アルの私物だろ。」

「・・・そ、そうよ。あたしが片付けて、箱に入れたのよ・・・」

 

ウィンリィの顔が、ますます青ざめていく。その声が震えていることに、自分でも気付いていないだろう。だからお前は、嘘が下手だって言ってんのに・・・。

 

「・・・お前が、アルのもんに“ゴミ”なんて書くわけねぇだろ。・・・そもそもあれは、アルの字だ。」

「・・・ち、違う!そんなことないわ!」

「バカ!俺がアルの字を見間違うわけねーだろ!」

「・・・・・・っ!」

 

ギッと俺が睨むと、ウィンリィはビクリと震えた。

 

「そうすると、可笑しなことになるな。アルは、自分で自分の私物を片付けたことになんだからさ。」

「・・・・・・・・・。」

 

「・・・それに、この家もおかしい。・・・どこにも、ここにアルが居た痕跡が無い。・・・あそこにある写真だって、お前とばっちゃんと、おじさんとおばさんのものばかりじゃねえか。」

「・・・・・・・・・。」

 

「・・・ウィンリィ、アルはどこにいる?」

 

ウィンリィの顔は、今にも泣き出しそうだった。

しばし、沈黙が流れる。

だけど、俺だって引くわけにはいかないんだ。

 

 

 

 

 

やがて、ウィンリィは大きく息を吐いた。

 

「・・・答える前に、一つ確認しておきたいことがあるの。」

 

じっとこちらを見据える幼馴染みの青い瞳は、穏やかな湖面のように凪いでいた。何か覚悟が、決まったらしい。

 

「・・・アルがあんたの所を出た後で、アルとあたしが一番心配したことは、あんたが一人でもちゃんと生きていけるのかってことよ。」

「・・・へぇ。じゃあ、時々かかってきた電話は、生存確認のためだったんだ?」

 

「・・・まぁね。でも、それは杞憂だったみたいでホッとしたわ。この前あんたがここに来てた時は、あんたもアルも自然に笑えてたし・・・」

 

ウィンリィが、懐かしむように少し微笑んだ。

 

「・・・だからね、今のアルとあたしの心配は、あんたが人体錬成するかもしれないってことと、この先もちゃんと生きていけるのかってことよ。」

「・・・・・・・・・」

 

「まぁ、人体錬成の方は大丈夫そうで安心したわ。それに、もう一つの方も・・・。今のあんたの目を見てたら、とても死にそうな人間の目には見えないもの。」

「・・・後追い自殺とか、そういう類のことを言ってのなら、今もこの先もする予定はねぇよ。」

 

俺がはっきりそう言うと、ウィンリィは訝しげな視線を寄越した。

 

「・・・そんなこと言うなんて、あんた、この数ヶ月で随分変わったのね。」

「・・・・・・・・・。」

 

変わった、とは少し違う。ただ、気付いただけだ。

まあ、考えが変わったとは言えるが、結局根本は変わっていない。

想いを向けるベクトルの先が変化しただけだ。

 

「・・・これからする話は、アルに口止めされてることなの。・・・聞けば、あんたのその気持ちだって変わるかもしれない。あたしだって、聞かせなきゃよかったって思うかもしれない。・・・・・・ねぇ、それでも聞く覚悟はある?」

 

ウィンリィの瞳は不安そうに揺れている。どうやら、よっぽどのことらしい。

 

「・・・なぁ、アルもお前も、俺のこと心配してくれたからそれを隠したのか?」

「・・・うん」

 

「それを知ったら、俺が傷付くようなことなのか?」

「・・・うん」

 

少し目を伏せたウィンリィに、俺の周りは優しい奴らばっかりだなと頬が緩む。

 

「・・・心配すんなよ。俺はもう、そんなに柔じゃねぇよ。・・・・・・それに、アルと離れていて、・・・色々分かったんだ。」

「・・・・・・・」

 

「お前にこんなこと言ったって、いい気はしねぇだろうけどな・・・。俺はアルと一緒にいたって離れていたって、アルのことが好きだ。これは一生、変わらない。それくらい、アルのことが大切なんだ。だから、アルを悲しませるようなことはしたくない。だから、アルが俺の幸せを願ってくれるのなら、俺は幸せになれるように努力するし、精一杯生きていく。・・・どうだ?これが俺の覚悟だ。」

 

真っ直ぐ前を向いてそう言うと、ウィンリィはようやく心の底から笑ってくれた。

 

「・・・分かった。」

「じゃあ、教えてくれ。アルのこと。」

 

「・・・うん。あたしね、本当は全部あんたに話してしまおうかって、何度も何度も考えてたの。」

「そうなのか?」

 

俺が少し驚いた顔をすると、ウィンリィはふわりと頷いた。

 

 

 

「だって、あんたとアルはこんなに想い合ってるのに、それを知らないままなんて理不尽じゃない。」

 

 

 

 

 

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