|
・・・・・・ エドワードで10のお題 ・・・・・・
――― 01. 金色の光
意識が浮上していく。 それに合わせて瞼を開けば、目の前に、金色の海が広がっていた。
・・・・・・ぅん?
ぱちぱちと瞬きを繰り返す。
・・・・・・ううん、違った。 金色の海なんかじゃない。ただの兄さんの髪の毛だった。
兄さんは僕の方を向いて、気持ち良さそうに眠っている。
顔にその金色の髪がかかっていたので、起こさないようにと注意しながら、そっと指先でのけてあげた。 まじまじと兄さんの顔を見る。 いつも鋭いその瞳は瞼の裏に隠されて、随分と無防備な姿を晒している。
そしてその姿は、零れる朝日に照らされて、とてもとても綺麗だった。
こんな姿、きっと僕しか知らないだろう。
ふふ、と満足そうな笑みを零して、僕は兄さんの頬にキスをした。
それから、朝食作りに階下へと向かう。
そっとドアが閉まった数秒後、兄さんが赤面しながら勢い良く起き上がったことを、僕は知らない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――― 02. 鋼の手足
現在の僕の体は、鎧です。 硬い鉄で出来ています。 だから触れると、冷たいのです。
僕の兄の手足は、機械鎧です。 金属製の手足です。 だから触れると、冷たいのです。
現在の僕の体は、鎧です。 触覚はありません。 だから触れても、何も無いのです。 触れられても、何も無いのです。
けれども時々、本当に稀に。
兄が僕に触れる機械鎧の指先から、何か。 ・・・何か、温かいものを感じることがあるのです。
冷たいはずの機械鎧から温もりを感じて、何も無いはずの鎧が温もりを感じる、なんてことが。
どうしてそんなことが起こるのか、僕にはさっぱり分かりません。
けれども、一つの事実として。
僕のこの魂は、兄さんの右腕で、出来ています。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――― 03. 銀時計の裏の文字
銀時計の蓋に刻まれた、文字。
それは兄さんの秘密。 それは兄さんの覚悟。 それは兄さんの決意、懺悔、罪と罰。
・・・そう、兄さん一人だけの。
僕には、分けてはくれなかったもの。
僕がこのことを知ったのは、幼馴染みを通じて、だ。兄には内緒で。
今だ、銀時計の蓋は閉じられたまま。
だから、僕はそれを見たことがない。
兄さんはいつか、僕にも見せてくれるだろうか。 兄さんはいつか、僕にも話してくれるだろうか。
固く閉じられた、銀時計の蓋。 それは閉じられた兄さんの心、のようで・・・。
それを思う度、僕は少しだけ、悲しくなるのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――― 04. 大切な想い出
「ねぇ、兄さんはいつから僕が好きなの?」
「は?どうしたんだ、急に?」
「ねぇ、僕が元の体に戻れた時から?」
「いや、その時はもうアルのこと、好きだった・・・。」
「じゃあ、僕が鎧の間は?」
「・・・好きだったよ。だから、俺の命をくれてやってもいいって思ってた。それでアルが元に戻れるのなら・・・。」
「・・・兄さん。」
「いつからアルが好きなのかなんて、分かんねぇな。だって気付いたらもう、好きになってたんだ。」
「気付いたら、もう・・・」
「あぁ。」
「・・・ねぇ、それはいつなの?」
「ん?気付いたのが?」
「そう。」
「・・・人体錬成の時、かな。」
「・・・・・・。」
「お前にとったら酷い話だけどさ、俺あの時、すごくほっとしたんだ。・・・アルの魂を、俺の手で取り戻せて良かった、って。」
「それで、気付いたの?」
「あぁ、はっきりと自覚したのは、もうちょい後だったけどな。」
「・・・じゃあ、人体錬成をする前の兄さんは、僕が好きだったのかな?」
「多分な。・・・だけど、いつからなんて分かんねぇな。ずっと一緒にいたんだし。」
「・・・そうだね。」
「お前だって、そうだろ?」
「・・・そうかもね。」
きっかけは、些細なことだ。
この想いは一体、何処から何時から、出てきたのだろうって考えただけ。 でも結局、そんなことはどうでもいいのかも。
今、僕は兄さんを愛していて、兄さんも僕を愛してくれている。
それだけが、あればいいから。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――― 05. ちっぽけな掌
―― このちっぽけな掌で、何が救えたんだろう。
―― このちっぽけな掌で、何が救えるんだろう。
苦い顔をして、あなたはよくそう、零しているね。
この先に何があるのかなんて、分からない。 それどころかこの後ろにだって、取りこぼしてきたのかも知れない。
誰かを、何かを、救えるかも知れないし、或いは傷付けるかも知れない。
所詮は、ちっぽけな人間のちっぽけな掌だから。
けれどもこれだけは、間違いないよ。
あなたのその掌は、確かに僕を、救ってくれた。
僕にとっては、大きな掌。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――― 06. ひるがえる、赤
あなたには赤が、よく似合う。
それは炎のような、太陽のような、血液のような、赤。 鮮烈に強烈に周りを飲み込んで、惹き付け、なお、輝きながら、その存在を刻み込んでいく。 淀みない、赤。滴り、ほとばしり、放たれ、僕の心を貫いていく。
だから僕は、あなたから目が離せない。
そうして、もう一つ。 僕とあなたを繋ぐ、赤が・・・。
だからきっと運命は、赤い色をしているに違いない。
かつて僕の魂は、
赤い赤いあなたの血液で、
この世に繋ぎ止められた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――― 07. 太陽の笑顔
セントラルの郊外に建つこの一軒家に越してきたばかりの頃、向日葵の種を植えた。 兄さんが選んで買ったこの家には、ささやかな庭が付いていたから。
それから季節は巡り、今は、二度目の人体錬成で取り戻したこの体で、初めての夏を楽しんでいる。
庭では鮮やかな向日葵が、まさに咲き誇っているところだ。
「兄さーん!どこにいるのー?」
生い茂る夏草を踏んで、庭に降り立つ。
「兄さんってばー!もう、いないのー?」
庭の隅では、向日葵が温い風に揺れている。
「にいさん・・・・・・・・・」
目の前に広がる金色の花弁は、まるで。
「兄さん、僕を・・・・・・」
―――独りに、しないで。
そう、呟いた瞬間に、後から強く抱き締められた。
―――あぁ・・・・・・。
視界の端に鮮やかな金色が映り、煌いている。
ゆっくりと振り返れば、僕だけの向日葵が笑っていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――― 08. 不屈のココロ
「なぁー、アルー。」
「なんだよ、馬鹿兄。」
「キス、してよ。」
「ヤだよ。」
「んだよ、ケチ。」
「そーゆー問題じゃないでしょ。」
「なーなー、一回でいいからさ。」
「ヤだ。」
「どうしても?」
「どうしても。」
「俺の明日の朝飯、牛乳でもいいっつっても?」
「・・・・・・・・・・・・。」
「何なら、口移しで飲ませてくれてもいいけど?・・・・・・つーか、そっちの方がイイな。コップ一杯全部っつたら時間かかるし、一回どころじゃ済まねぇしな!」
「ちょっ、黙ってくれる?」
「・・・・・・・・・・・・はぃ。」
「はぁー・・・。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「なぁ、俺のこと好きだろ?」
「・・・まぁ。」
「別に嫌いじゃねーだろ?」
「・・・うん。」
「じゃー、してよ。そしたら俺、幸せだから。」
「・・・・・・あー、もう!兄さんには敵わない!・・・そんなこと言われたら僕、断れないじゃない。」
「そんだけアルを愛してる、ってこと。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――― 09. 追い求めるモノ
僕の兄は、誰かの“背中”というと、父親のそれを思い浮かべると言う。
兄にとってそれは、母親を不幸にし、自分達には見向きもしなかった、冷たい背中の象徴らしい。
僕はまだ幼かったから、兄の言うそれを実はよく覚えていないし、父親に対して冷たいなんていう感覚も実はない。
むしろ、僕が誰かの“背中”といって思い描くのは、兄さんのそれだ。
机に向かって書物を広げ、構築式を紡ぐ、兄の背中。
真理を求め、未来へ進み、僕を導く。
そんな兄の背中を僕は、いつも追いかけているばかり・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――― 10. 飛べ、空高く
今日は、良い天気だ。
空を見上げると、雲ひとつない青が広がっている。 鮮やかな新緑と相まって、何とも爽やかな風景だ。
心地良い風がサァと吹き抜けて、今し方干したばかりのシーツを優しく撫でていく。 パタパタとはためく白いそれは、青と緑の世界に見事なコントラストを成していた。
一息吐いて、空を見上げる。
風に揺らされて頬を撫でる髪がくすぐったく、自然と笑みが零れていく。
何とも、のどかな風景だ。
そうして感慨に耽っていると、視界に何か、白いものが映り込む。
それは青空を切り裂くように鋭く、けれどもそよ風と舞うように優雅に、こちらへと向かいながら下降してくる。それをふわりと捕まえれば、少々不恰好な、紙ヒコーキ。
訝しげに飛んで来た方向を見上げれば、自分達の家の二階、兄の書斎の窓が開いている。
再び、手中の紙ヒコーキに視線を落とす。 ゴミ?とか気晴らし?とか童心に帰って?などと憶測しながら、何気なく、それを広げてみると・・・。
『昨日はごめんな。アルのこと、スゲー好きだから。』
そこには、兄らしい文字が並んでいた。
一瞬呆気にとられたけれど、すぐに頬が緩んでいく。その紙を丁寧に折りたたんで、庭からリビングへ。 適当な紙を探して、紙ヒコーキを作る。もちろん、こちらもメッセージ付きだ。
それから再び、庭へ降り立つ。 兄の書斎の窓めがけて、紙ヒコーキを送り出す。
『今日はシチューにしてあげる。』
青の中を飛んでいく白い紙ヒコーキは、窓から伸ばされた手に、確かに捕まえられたのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
|