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――― 06. 握り締めた掌
今朝目覚めると、世界は薔薇色に染まっていた。
まぁ、それは喩えに過ぎないが、幸せな気持ちで心の中が一杯だ。 何と言ったって昨日、最愛の弟がプロポーズに応えてくれたのだから。
場所が公園のベンチだったからあまりムードはなかったし、成り行きでそうなってしまったから“結婚しよう”というお決まりのセリフも言えなかったけれど、アルと俺の子供の話をしたら笑って賛同してくれた。 その後、二人で幸せな家庭を築こうなって言ったら、照れながらも頷いてくれたんだ。
数日前に失敗してしまったこともあって、この喜びはひとしおだ。 俺は今なら、世界を敵に回したって構わない。何だって出来る気がするぜ!
「っはよー、アル!」 リビングに飛び込むと、アルフォンスは朝食の準備をしてくれていた。
「おはよ、兄さん。今日は早いね。」 俺はエプロン姿の背中にぎゅっと抱き付く。
「これ、スゲー気持ちいい。さらさらしてて。」 そう言って、昨日アルフォンスが俺のために買ってくれたパジャマを撫でる。
「それは良かった。」 アルが微笑んだので、俺は再び薔薇色の世界に包まれた。 浮ついた気分で身支度を整え、新婚の気分で玄関で待っていると、いつもよりちょっと遅れてアルフォンスが姿を現した。 その格好を見て、俺は戸惑う。 それからぼうっと見惚れてしまった。
アルフォンスはいつもの私服ではなく、かっちりとしたスーツを着込んでいたのだった。
「・・・どうしたんだ、ソレ?」
俺の問い掛けに、アルフォンスはばつが悪そうに視線を逸らした。
「・・・・・・実はね、今からお見合いなんだ。」 「へぇー・・・。って、見合いィ!?」 「うん・・・。なんかお偉いさんの娘らしくってさ、この話をもってきたマスタング大佐も断れなかったみたいで、とりあえず会ってみてくれないかって頼まれちゃったんだよね。」 「そんな・・・」 「じゃ、行ってくるね。兄さんも遅刻しないでね。」
そう言うと、アルフォンスはさっさと行ってしまった。 ショックで固まったままの俺を置いて。
結局、俺は遅刻した。
定時に上がって急いで帰ると、アルフォンスはすでに帰宅していた。
「アルッ!どうだった?!」
扉を開けるなり勢い込んで尋ねると、ソファに座っていたアルフォンスは苦笑した。 「どうって、会って食事して喋ってただけだよ。丁重にお断りしてきました。」 「そ、そっか・・・。」
カクンと体から力が抜けて、俺もソファに座り込む。 よかったー!と、心から安堵した。 なにせ今日は一日中、そればかりが気になって気になって、仕事どころではなかったのだ。
しかしホッとしたのは束の間で、アルフォンスはとんでもないことを言い出した。
「でも、ちょっと勿体無い話だったなぁ・・・。」 「はぁ?」 「だってすごく可愛いくて、素敵な人だったんだ。向こうも結構、僕に好意的だったしね。」
そう言って、アルは未練たらしい顔をした。 声の感じから、お世辞ではなくマジだと窺える。
「あのね、子供は何人欲しいとか、どんな家庭にしたいとか、色々お互いの夢を話したんだ。それで、こういうのが一般的な幸せなんだろうなって、少し羨ましい気持ちになったんだ・・・。」
今度はちょっぴり寂しそうな顔をして、アルフォンスは目を閉じた。 俺は、かける言葉を見失う。 ・・・そっか、そうだよな。俺とアルは男同士で、しかも兄弟だ。いわゆる男女の一般的な結婚とはワケが違う。それで普通の幸せが手に入るとも限らない。ましてや昨日はああ言ったけど、俺とアルの間には、子供なんか出来やしない。
「・・・さてと、晩ご飯作らなきゃ。」
いつもの顔をして立ち上がったアルフォンスは、そのままキッチンへと向かう。 その背中を引きとめようとして、俺はとっさに手を伸ばした。けれどその手は、途中で引きつったように動かなくなる。
アルを捕まえて、それで一体どうなるって言うんだ?掴んだと思った掌の中には、一体何があるのだろう。そこにアルの幸せは、確かに存在しているのか?
本当は何も掴めないって可能性だって、十分ありえるのだろう?
俺は空っぽの掌を握り締めて、アルフォンスの背中を見送った。 あぁ、それは何とも恐ろしい。
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――― 07. 止められない歩み
最近、兄さんの様子がおかしい。
どうおかしいのかと言うと、僕に構ってこないのだ。しかも喋りかけてもこないから、最初は僕が何か、兄さんを怒らせるようなことでもしたのかと思ってしまったくらいだ。
けれど割と頻繁に、背後から視線を感じるので振り返ると、そこにはいつも兄さんがいた。
視線が合うと慌てて物陰に隠れたりするのだが、目だけはずっとこちらを見ていて、喋りかけたそうにはしている。 だから、兄さん何か用?と声をかけるのに、今度はぴゅっと逃げるのだった。
はっきり言って訳が分からない。
兄さんがそんな風になったのは、僕がお見合いを受けた日からだ。 けれどもそれが兄さんにとって、一体何のきっかけになったのかは見当もつかない。
このことをホークアイ中尉に相談してみると、中尉はやや考えてから、弟離れじゃないかしらと口にしたのだった。僕は、それを自分でも繰り返してみる。 弟離れ。
確かにそれならあり得る事かも。 僕が結婚するかも知れないってことを意識した兄さんが、今まで僕に構い過ぎだったってことにようやく気付いたのだろう。
うん、そうだとしたらそれはとても良い傾向だ。 兄さんにはもっと、僕にかまけてばかりいないで、自分のことも考えて欲しい。 結婚のことだってそうだ。
兄さんが先に結婚してくれないと、僕は多分いつまでたっても結婚できなくなってしまうと思う。 だってもし僕が先に結婚してしまったら、当然兄さんは僕と離れて一人暮らしをすることになる訳だが、そうすると兄さんはまともに生きていけない気がするのだ。
だってあの人は、僕がいないと何も出来ない人なのだから。 料理も洗濯も掃除も出来ないし、予定の管理も約束事を覚えるもの朝一人で起きるのだっておぼつかない。おまけに忙しかったり集中している時には、食事や睡眠も忘れてしまう。 そんな駄目な人を一人で放り出して、僕だけ幸せな結婚をするなんてできないし、きっと心配でいてもたってもいられなくなるだろう。 だから、兄さんのお嫁さんになる人はいっぱい苦労するだろうから本当に申し訳ないのだけれど、早くいい人が見つかればいいと思うよ。 それまでは僕がしっかり、世話を焼いておくので。
あぁでもそれじゃ、本末転倒なのかもしれない。 せっかく兄さんの方から弟離れしようとしてるのに、僕の方から構っていたら。 でもやっぱり、この人を放ってはおけないんだよね。
それにこれ以上、兄さんに仕事をサボれれたらこっちも困るし。 弟の後ばかりつけていたせいで仕事がはかどっていませんなんて、恥ずかしくて言えないよ。 っていうかこれ、ホントに弟離れなのかなぁ? 見ようによっては、過保護が進んでるような気もするんだけど。
まぁ、こんな状況が続いてたんじゃらちがあかない。 とりあえず一回、話をつけなきゃ。
僕はぴたりと足を止めた。そうすると、僕を追いかけていた足音も止まる。
「兄さん、ちょっといい?」
僕がくるりと振り返ると、兄さんは早くも背中を向けて逃げ出していた。 相変わらず、無駄に素晴らしい反射神経だ。
だけど、追いかけっこなら僕にも自信があるんだよ。 あの人は基本、真っ直ぐにしか進めないから、先回りしてしまえばいいだけだ。そりゃ、足の速さや体力だけなら互角だけど、そればっかりで頭を使わないところ、ホントに詰めが甘いよね。
さてと兄さん、覚悟はいい?
僕は司令部の地図を頭に描きながら、勢いよく駆け出した。
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――― 08. 黄金の輝き
中央司令部の、とある資料室。
ここには、使用頻度の低い文献ばかりが収蔵されているため、人が訪れることは殆んどない。 そんな部屋の中に、珍しくも人影が二つ。エドワードとアルフォンスだ。
逃げる兄を捕まえて、とりあえず人気の無いところで、と思ってここまで連れてきたものの、一体何から尋ねればいいものか。 エドワードは、今にも逃げ出そうと隙を窺っている始末だし。
備え付けのソファに並んで座って、どうしたものかと思案する。
「・・・兄さん。後つけられてる人の気持ちって、考えたことある?」
アルフォンスは、にっこりと笑みを浮かべた。 綺麗すぎて恐い。 エドワードは反射的に腰を浮かせたが、がしりと手首を掴まれた。 アルフォンスは笑みを崩さないまま、ジッとこちらを見つめている。手首を掴む力が強くなった。
「・・・ご、ゴメン。俺が悪かった。」 「そう、分かってるならもうしないでよね?・・・兄さん、この際だからはっきりさせようよ。兄さんは結局、何がしたいわけ?」
アルフォンスの気迫に圧されたのか、エドワードは観念したらしい。キッ、と鋭い瞳で弟を見据える。
「・・・アルはさ、俺と他の女と、どっちがいいんだ?!」 「はぁ?何の話?」 「結婚の話!!」 「け、結婚・・・?」
唐突な話題に、アルフォンスは頭の中が疑問符でいっぱいだ。本当に兄の思考回路はどうなっているのかさっぱりだ。
「・・・・・・兄さんと他の女の人と、どっちが大切かってこと?」 「あぁ。」
エドワードが頷くと、アルフォンスは考え込んでしまった。その様に、心の中で舌打ちする。 何故、即答で自分を選んではくれないのか。 悩むっていうコトは、やっぱり弟は、普通の幸せの方がいいのだろうか?
そんな兄の心の内など知るよしもなく、アルフォンスはというと、エドワードの質問の意図を汲み取ろうと必死だった。 どっちが大切かっていうことは、恐らくどっちを取るのかと訊いているんだろう。 それならもちろん、気苦労ばかりの男の二人暮らしより、可愛い奥さんとの平穏な家庭がいいに決まっている。だけど、兄さんを一人で放っておくわけにもいかないし。 ・・・うーん、困ったな。 大体今のところ結婚相手なんかいないのに、兄はどうしてそんなことを訊くんだろう。
「・・・兄さんはさ、僕がいないと駄目なワケ?一人じゃ生きていけないの?」
アルフォンスの問い掛けに、エドワードはサァッと青ざめる。
「無理、絶対ムリ。俺、アルがいないと絶対死ぬ。」 「死ぬってそんな、大袈裟な・・・」 「だって俺、アルがいない生活とか・・・、想像しただけで無理だもん。」
エドワードはあまりの恐ろしさに身震いした。 離れて暮らすとか、朝起きても夜帰ってもアルがいないとか、自分には耐えられない。今だって、ちょっと離れているだけでも不安なのに、それ以上遠い存在になるなんて。 ましてや自分だけのアルフォンスが、他の女のものになるなんて、絶対許せない。自分はこんなにも、アルフォンスを愛しているのに・・・。
「・・・じゃあさ、一人で生活できないなら、兄さんも誰かと結婚すればいいじゃない。そうしたら寂しくないし、家事とかもやってもらえるし。」
どうかな、とアルフォンスが首を傾げる。それを聞いて、エドワードは固まった。 そして数秒後、ガバリとアルフォンスにしがみ付く。
「ヤだよ!俺、絶対アルしか愛せない!他の奴と結婚なんか絶対ムリ!!」
うわーっと今にも泣き出しそうな兄を見て、アルフォンスは呆気にとられる。
「に、兄さんはそんなに僕のこと、好きなの?」 「あぁ・・・。」 「でも、それは家族としてでしょ?」
だから好きな女の子が出来れば、僕のことなんて執着してる暇なくなるよ。 そう言って何とか兄を納得させようというアルフォンスのもくろみは、あっという間に崩れていった。なぜなら、エドワードははっきりと首を振ったのだ。
「・・・なんだ、アルは俺の気持ちが家族としてのものじゃないかって疑ってたんだな。だから見合いとかに行って、俺の気持ちを確かめてたんだな・・・。」 「・・・・・・・・・はい?」 「そうか・・・。ごめんねな、不安にさせて。」 「・・・え、ちょっと?」 「でも、心配すんな。・・・俺の気持ちは、本物だから。」 「・・・に、兄さん?」 「家族としても勿論愛してるけど、それ以上に、一人の男として愛してるよ、アル・・・。」 「・・・・・・・・・ソレ、本気で言ってるの?」 「あぁ・・・。」
とさり、とアルフォンスはソファの上に押し倒された。覆い被さってくるエドワードの金髪が、さらりと滑ってアルフォンスの頬に触れる。
「だからもう、・・・迷うなよ、アル。」
至近距離の黄金の瞳が輝いている。 囚われて目が離せないくらい、強く。
「俺にしとけよ。・・・これ以上ない位、絶対幸せにしてやるから。」
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――― 09. それぞれの想い
「・・・で、どうしたの?」
「・・・・・・・・・兄さんが顔近付けてきたから、頭突きして逃げてきた。それからは気まずくて喋ってない。」
「あんた、それであたしを呼んだの?」
「うん。昨日と一昨日は仕事が忙しくて、兄さんと一緒にいる時間がなかったから良かったんだけど、今日は二人とも休みの日で困ってたんだ。来てくれて本当に嬉しいよ。」
「二人っきりが気まずいってワケ?」
「それもあるけど、何だか恐いんだもん・・・」
「襲われそうで?」
「・・・っウィンリィ!からかわないでよ!」
「あはは、ゴメンゴメン。」
「ねぇウィンリィ、いつまでここにいてくれる?家の中のもの何でも自由にしていいから、ずっと泊まってってくれないかな?何ならそのまま、兄さんと一緒に暮らしてくれるとホントにありがたいんだけど。」
「嫌よ。アイツはあんたにしか興味ないじゃない。もう、観念してアイツに落ちちゃいなさいよ。そしたら丸く収まるんだしさ。」
「それ、丸く収まってないから。・・・・・・って言うか、何でそんなに冷静なの?僕なんかびっくりしすぎてどうしたらいいのか分からないのに。」
「そりゃ、エドのこと見てれば分かるわよ。子供の頃からアルしか興味なかったんじゃない。アレで気付いてなかったなんて、アルも鈍感ね。そっちにびっくりしたわ。」
「・・・うそ。」
「あたしはさ、別にいいと思うわよ。あんた達、お似合いじゃない。」
「・・・でも僕、どうしたらいいのか本当に分からないんだ。」
「エドに対する自分の気持ちが、分からないの?」
「・・・うん。多分、そういうことなんだろうと思う。」
「じゃ、嫌だった?エドがアルのこと、弟として以上に好きだって知って。気持ち悪いって思った?」
「・・・ううん、そんなことない。だって・・・、兄さんの金色の目に、吸い込まれそうだったんだ。」
* * * * *
「ちょっと、エドー!」
「ンだよ、ウィンリィ!大体お前、いつになったら帰るんだ?用事ならもう済んだだろ。せっかくのアルとの二人っきりのチャンスなんだから、邪魔すんなよな!」
「・・・・・・・・・そっか、そうよね、うん。アンタには、気まずいとかそういう繊細な感情ないもんね。」
「はぁ?」
「って言うかあんた、プロポーズしてキスしようとしたら逃げられたくせに、よく平気でいられるわねぇ。」
「・・・あ、あれはっ、逃げたんじゃなくて照れてんだよ。」
「あっそう。・・・おめでたい思考回路ね。」
「そういうお前は、俺達のこと応援してくれてんのか?」
「まあ、一応ね。あたしはいつでも、あんた達が幸せになれればいいって思ってるわよ。」
「そっか・・・、サンキュ。」
「あんたに礼なんか言われると、気持ち悪いわ。」
「ンだよ、ソレ。」
「アルのこと、泣かせたら許さないからね。」
「おう。アルは俺が絶対幸せにするから、心配すんなって!」
* * * * *
「アルー!」
「あ、ウィンリィ。もうすぐご飯できるよ。」
「んー、いいにおい。」
「・・・・・・・・・で、兄さんどうだった?」
「・・・アルさぁ、もうエドに落ちちゃいなさいよ。あいつ、どうしようもないアル馬鹿だからさ、幸せにしてくれるんじゃない?」
「えぇ?・・・それ、本気で言ってるの?」
「うん。」
「でも、僕と兄さんは兄弟なんだし・・・」
「・・・アルがお兄ちゃん思いのいい弟だって、みんな知ってるわ。でも、アルの心の中にあるのは本当にそれだけ?兄思いって言葉で片付いちゃうようなものなの?」
「そう言われると・・・・・・」
「じゃ、もしもの話だけど。エドがアルの知らない女の人と結婚したいとか言い出したら、どんな気持ちになる?アルは笑っておめでとうって、言えるの?」
「・・・ううん。きっと悲しくて寂しくて、泣いちゃうかも・・・」
「離れたくないんでしょ?ずっと一緒にいたいんでしょう?だったら余計なこと考えないで、そうすればいいじゃない。エドだってそうしたいって、言ってるんだし。」
「・・・・・・ウィンリィはどうして、そんなこと言ってくれるの?・・・兄弟でこんなのって、おかしいじゃない。」
「あたしはただ、あたしの大好きなエドとアルが、幸せになってほしいって思ってるだけ。もしも世界中を敵に回したって、あたしだけはあんた達の味方でいたいの。」
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――― 10. 誓う、己が信じるものに
僕はまたもや、困っている。
頼みの綱のウィンリィは、後は自分で頑張りなさいと笑顔で帰ってしまったし、今日の非番は僕だけなのに何故か兄さんも一緒に休んでいるし。 庭に干したシーツを取り込みながら、溜め息ばかりが零れていく。 空の青はあんなに綺麗で心地良いのに、僕の心は憂鬱だ。
さっきからこっちを窺っている兄さんの視線も、気になるし気まずいしどうしよう。
僕は一体、どうすればいいのだろう。 僕は一体、兄さんのことをどう思っているのだろう。
カサリ、と草を踏んだ音がした。
振り返らなくても分かる。
僕はとっさに逃げ出そうと構えたら、シーツを抱えたままの腕を強く引かれた。
「逃げるなよ、アル・・・。」
あの、吸い込まれそうな黄金が、こちらを見ている。
「俺から逃げるなんて、許さない。」
僕は目を見開いたまま、動けなくなる。
「・・・・・・アル、キスしよう。」 「は・・・・・・?」 「俺とキスしよう。・・・嫌か?」
兄さんが僅かに微笑んだ。 僕はうんともすんとも言えないまま、ぼんやりと考える。 キスをすれば、兄さんへのこの思いの形が見えるのだろうか?
「アル・・・・・・」
耳元で僕を呼ぶ声がくすぐったくて、ぎゅっと目蓋を閉じてしまった。
後はただ、感覚の世界に飲み込まれ、た。
目蓋を開けると、すぐそこに兄の顔があった。
また触れてしまいそうなくらいに近く、赤い唇が濡れている。 はぁ、とひとつ息を零した。
「・・・・・・・・・どうだった?」 「え・・・?」
「俺は凄く・・・、気持ち良かった。」 「・・・・・・ッ!」
頭の中が真っ白になる。何を言っているんだ、この人は・・・。
「なぁ、アルは?・・・アルは、気持ち良くなかった?・・・こんなに顔、赤いくせに。」
そう言って、兄さんは左手で僕の頬にそっと触れた。凄く、熱い。その熱の出所が、僕なのか兄さんなのかも分からない。
「好き、だろ?俺のこと。愛してるだろ?・・・そうじゃなきゃ、男同士で、しかも兄弟なんかでこんなこと出来ねぇよ。」
さっきよりも長く深く、口付けられた。僕は身動きできないまま、兄さんの腕の中に納まっている。 こんなんじゃ、動悸の速さが伝わってしまうかも。 兄さんは僕の腕からスルリとシーツを奪い取ると、バサリと僕に覆い被せた。 目の前が真っ白になる。
「兄さん・・・・・・?」
パンッと掌を合わせる音がして、見慣れた光に包まれる。 これは、練成光・・・? 頭から被さっているものの質量が軽くなる。 眩しくて細めていた目を開くと、シーツがレース生地になっていた。 正面に、兄さんの顔が透けて見えている。
「アル、綺麗だ・・・」
そう言われて、自分の姿を確認する。 これじゃまるで、花嫁のベールを付けているみたいだ。
・・・・・・ううん、違う。“みたい”じゃなくて、兄さんはそのつもりなんだ。
顔を覆っていた部分のベールが、兄さんとは思えないような繊細な手付きで持ち上げられる。
「さてと、アル。永遠の愛を誰に誓おうか?」 「え・・・・・・?」
「神様は、俺もお前も信じてねぇから無しな。」 「ちょ、兄さん・・・これどういうつもり?」
「結婚式に決まってるだろ?・・・で、どうすんだ?」
目の前の人は無邪気に笑っている。僕は兄さんのペースに付いていくのと、煩い心音を抑えるのとで必死だというのに。
「あの時の、冗談じゃなかったんだ・・・・・・」 「俺はいつでも、本気だぞ。」 「・・・・・・・・・そうだね、確かに。」
僕が苦笑すると、兄さんは自信に満ちた笑顔を浮かべた。
「俺、いつだって本気でアルを愛してた。今だって、そうだ。これからも、ずっとアルを愛し続ける。・・・そう、俺自身とアルに誓うよ。」
お前は・・・?と耳元で問いかけられて、体が震えた。唇を開きかけて、カチリと歯が鳴る。
「・・・・・・今まで僕、心で考えたって、分からなかったんだ。兄さんを好きだっていうのは、間違いなかったんだけど・・・。」 「・・・で、身体は何て言ったんだ?俺とキスして。」
兄さんが、黄金の瞳で僕を覗き込んでくる。やっぱり、吸い込まれそうだった。 心も身体も何もかも。 吸い込まれて、溶け合って、ひとつになりたいと思ってしまった。
僕は兄さんに、落ちちゃったんだ。 ううん、そうじゃない。
本当はずっと前から、落ちてたんだ、あまりにも近過ぎて気付かなかっただけで。
素敵な女性との幸せな結婚生活に憧れはするけれど、喜怒哀楽の全てを分け合いたいと思うのは兄さんだけだ。 幸せな時だけでなく、悲しい時も辛い時もずっと側にいたいよ、兄さん・・・。
「・・・・・・あなたのいない人生なんて、僕には考えられないよ。」 「アル・・・・・・」 「僕も、僕自身と兄さんに誓う。あなたを愛し続けます。」 「アルっ!!!」
兄さんは、勢いよく僕に抱き付いた。
「わぁっ!ちょ、兄さん!」 「アルっ!誓いのキスっ!!」
言うなり兄さんは目を閉じて、僕からのキスを待っている。
僕は恥ずかしくてどうしようもなく、ヤケクソ気味に唇を合わせたのだった。
* * * * *
「あぁっ、ベールのついでにウェディングドレスも錬成すればよかった!」
「はぁ?!そんなの僕は着ないから!!」
「ンだよ、アルのケチ!・・・・・・で、どうだったんだ?」
「何が?!」
「勿論、俺とのキスだよ。」
「・・・・・・っ!」
「正直に言ってみな?俺だって言ったんだし。」
「・・・・・・・・・・・・・・・か・・・った。」
「ん?もっかい、言って。」
「・・・・・・・・・だから、“気持ち良かった”って言ったんだよ、このバカ兄!!そんなこと聞くな!!」
「アルー!!!」
「ぎゃー、抱き付くなー!!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ハイ、というコトでこんな感じになってしまいましたが、私を見捨てないで下さい。 おかしいです。ギャグではあったんですが、アルだけはまともだと信じていたのに。 エドはなんか男前になったね。アルはお兄ちゃん大好きな鈍感天然君になったよ。 二人とも前半とキャラが違うよ・・・。 ま、なにはともあれ幸せになるがいいよ。
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