―――  031.  真夜中の星空、見上げる人

 

※ 旅の途中  幼馴染み3人組

 

 

 

リゼンブールの夜は、静か。

 

ベランダに出ると、夜風が長い金髪をフワリとさらっていった。

 

地平線を見渡せるこの地では、煌々とした夜空の、どこまでも広がっている様は圧倒的。

それは覆い尽くすように恐ろしく、包み込むように穏やかだ。

 

果てない距離でも、世界と繋がっているのだと思わせてくれる。

同じ空の下に居るのだから、なんて陳腐な言葉を思い浮かべて。

 

幼い頃、家に帰るのが遅くなってしまって、夜道の心細さに泣いたあの日。

幼馴染みの兄弟は代わる代わる、あそこで光っているのが・・・、と星座を数えて煌々とした世界を教えてくれた。

 

足元を見れば影、天上を見上げれば光の海。

 

繋いだ手の温かさを、今も、覚えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

窓から見上げる夜空は四角く切り取られ、酷く滑稽だ。

 

一人きりの夜は、静か。

 

差し込む光が自分の腕で反射して、その金属の冷たさを見せ付ける。

幼い頃に好きだった、煌々とした世界はもう遠い。

 

己の浅ましさを露呈させるだけの、罪のない純潔さ。

今はもう、闇に紛れている方が落ち着いた。

もうどれくらい、堕ちたのだろう。

 

煌々とした世界は、もはや眩しすぎる。

照らさないで欲しい。暴かないで欲しい。あの穢れない魂に、こんな姿を晒さないで欲しい。

 

遠く無邪気だった頃、二人で図鑑を見ながら星座を覚えた。

 

きれいだねとはしゃいだ声は、今も、耳に残っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界が寝静まった夜は、静か。

 

カシャンと己が立てる音すら吸い込まれていくようだ。

 

幾何学的な街のシルエットと、夜空のコントラスト。

あの空がもし、漆黒のカーテンを引いたような闇であれば、夜はなんと虚しいものになったであろうか。

また、あの空にもし、月が一人きりで浮かんでいたならば、夜はなんと寂しいものになったであろうか。

 

煌々とした星達に、孤独は救われるのだった。

 

幼かったあの冬の夜、毛布をかぶり二人で身体を寄せ合って、星を眺めた。

 

ふいに横を向いた時に見えた、淡く照らされた金の髪の美しさは、今も、思い出に焼き付いている。

 

 

 

 

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―――  032.  箱庭の記憶

 

※ 近未来パラレル? 死にネタ、ですね

 

 

 

ぱちりと目が開いた。

白い天井が見えている。

 

アルフォンスはおかしいな、と思う。

 

自分は何故また、目覚めてしまったのだろう。

機能は全て停止させて、永遠の眠りについた筈だったのに。

 

すっ、と人影が落ちた。白衣を着た黒髪の男性と金髪の女性が、アルフォンスを覗き込んでいる。

 

「・・・すまないね、起こしてしまって。」

「・・・・・・・・・」

 

「私はロイと言う。こちらはリザ。ここは、セントラルにある研究所だ。・・・君を作った科学者が、数年前まで勤めていた場所だよ。」

 

ロイの言葉に興味を覚えて、アルフォンスは体を起こしてから周りを見回した。

 

「君を起こすために、少し体をいじらせてもらったよ。そのことについても、先に詫びておこう。」

「・・・いえ、構いません。僕達にとって何よりも優先されるべきは、人間の要求を満たすことですから。」

 

教科書どおりの答えに、ロイは複雑な顔をする。

 

「そうか・・・。君を起こしたのは、あの男の最期について知りたいからだ。・・・教えてくれるかね?君の記憶を。」

「はい。」

アルフォンスはこくんと、頷いた。

 

「まずは、君が作られた時のことだ。あの男は、何のために君を作った?」

 

「・・・僕が起動した時に、マスターはこう言いました。お前は、俺の死んだ弟に似せて作った。だから、マスターではなく兄さんと呼ぶように、と。そして僕に、弟のように振舞うことを求めました。弟の性格や行動パターン、趣味、嗜好はプログラミングされているから、それに従えば良い、と。」

 

「弟の身代わりとして、君を作ったというわけか・・・。まぁ、外見がこんなに似ていれば、それ以外の目的など考えられんがな。・・・それで、彼と君はどんな風に暮らしていたんだ?」

 

「・・・外界から遮断された山奥で、僕と“兄さん”と二人で暮らしていました。家事は主に僕がして、兄さんは読書をしたり散歩をしたり、時々、物思いにふけることもありましたが、概ね笑顔で穏やかに日々は過ぎていきました。そうして、一年2ヶ月と二十三日目の朝、兄さんは死にました。」

アルフォンスは、いったんそこで口を閉じた。

 

「・・・私達が君を見つけたのは、大きな木の側にある、赤い屋根の小さな小屋だった。君達が暮らしていたのは、そこで間違いないかね?」

 

ロイの問い掛けに、アルフォンスは頷いた。

 

「君は全ての機能を停止させ、自然に体が朽ちていくのを待っていたんだろう?」

「はい。」

 

「エドワードがそうしろと、言ったのかね?」

ふるふると、今度は頭を振った。

 

「兄さんが僕に言ったのは、自分が死んだら、自然に還れるように土に埋めて欲しいということだけです。残される僕のことなど、兄さんは考えてくれませんでした。」

アルフォンスの顔が、少し悲しそうに歪められた。本当の人間と見間違うばかりの表情だ。

 

「君は、小屋の側にある大木の根元に横たわっていたね。その下に、エドワードは眠っているのかね?」

「そうです。」

 

「エドワードは近々、自分が死ぬのが分かっていたのか?」

「はい。兄さんの最期を看取るために、僕は作られたのです。」

そこで、ロイはジッとアルフォンスを見た。

 

「君はエドワードと共に、眠りにつきたかったのだろう?だから、自分で機能を停止させた。」

「・・・はい。」

 

「それは一体、どうしてだ?命令された訳でもないのに。」

アルフォンスは、困ったように微笑んだ。

 

「・・・僕にも、分かりません。ただ、そうしなければならないではなく、そうしたいと思ったんです。」

「・・・自分の意思で?」

 

「・・・それも、分かりません。僕達に自分の意思など、存在しないはずですから。プログラミングされたアルフォンスの行動パターンが、そうさせたのかも知れません。だけど・・・、これが僕の“心”ならば良いのにって思うんです。・・・可笑しいですよね。」

「・・・・・・心・・・」

 

「心が欲しいと、兄さんと暮らすうちに思うようになりました。僕に心があれば、兄さんをもっと理解できるのに、そうすれば兄さんの心にも近付けるのに、と・・・。」

 

ロイはグッと、言葉に詰まった。

心などという抽象的で概念的なものを欲しいと思う時点で、とうにアンドロイドの範疇を超えているのではないか。

まったく、あの男は、とんでもないものを作ったものだ。

 

「・・・エドワードと一緒に居て、幸せだったかい?君にそんなことを聞くのは、おかしいが・・・」

「幸せでした。例え身代わりでも、兄さんが笑ってくれるのならば、僕も幸せでした。」

アルフォンスの瞼が、とろんと落ちる。

 

「・・・ありがとう、アルフォンス。・・・ゆっくり、おやすみ。」

「はい、おやすみなさい・・・」

 

 

アルフォンスは今度こそ、完全に瞼を閉じた。

 

 

 

 

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―――  033.  伸ばされた指先、行方不明

 

※ 学パラ  エドとアルは同じクラス、でも他人  アル(アルフォンシーネ)は女の子

 

 

 

夕日の差し込む図書室は、静かだった。

 

グラウンドの、部活動の音が遠くに聞こえる。

 

本の背表紙にかけられた指が、僅かに震えた。

その原因はというと、エドワードの隣に立ってジッと手元を見つめている。

 

「・・・なんか用?」

エドワードはようやく、隣の少女に声をかけた。

 

「ううん。エドがそういうのも読むなんて、意外だなぁと思って。」

ゆるく首を振ったので、アルフォンシーネの長い髪がふわりと揺れた。

 

“そういうの”とは、エドワードが手にしている小説のことだ。

エドワードは普段、小説の類には見向きもしないのだが、悪友のロイが“恋愛小説でも読んでみたらどうだ”と勧めたのだった。

“それで女性の気持ちでも学べば、君の好きな人にも振り向いてもらえるかも知れないぞ”と、余計な一言もついてきたのでカンにさわったのだが。・・・まぁ何もしないのよりはいいだろうというワケで、現在に至るのだった。

そんなこと、当の本人に言えるはずもないのだが。

 

「あー・・・、理系の棚のはだいたい読んじまったから、それでな・・・」

「確かに、いっつも難しそうなのしか読んでないよね。」

ふふ、と笑う柔らかな表情にドキリとする。

 

「・・・あ、アルは、こういうの読む?」

「うん。おもしろそうだなぁと思ったら、何でも読むよ。あ、でも、ここだとそういうの借りる方が多いかな。専門書とか研究書とかだったら、父さんの書庫にいっぱいあるからね。」

 

「あぁ・・・。お父さんって、大学の教授なんだよな?」

「うん、そうだよ。科学者の中では結構有名らしいけど・・・」

 

「・・・知ってる。著書、読んだことあるから。」

エドワードがそう言うと、アルフォンシーネは目を丸くした。

 

「すごいね、エド!あんなの読んだの?」

「あー、初心者向けの簡単なヤツな。」

「えぇ?あれでもわりと難しかったけど・・・。でも、すごいなぁ。同い年で父さんの本、読んだことある人に会ったの初めて。」

 

嬉しそうに笑うアルフォンシーネに、普段は目つきの悪いエドワードも表情が緩む。

この笑顔は、他の誰にでもなく、自分にだけ向けられているのだ。多少、ニヤけてしまうのは仕方ないだろう。

 

その時、がらりと入り口のドアが開いて、アルフォンシーネの友達が迎えに来た。

 

「じゃあエド、またね。」

 

ひらひらと手を振って、離れていく。いつもこの瞬間が、切なかった。

 

自分も手を振ろうかと思ったが、他人の目が気になって、いつも出来ない。

 

姿が見えなくなってから、やっと少し気が抜けた。

とん、と本棚に背中を預ける。

 

アルフォンシーネを好きになってから、やっとここまで距離が近付けた。

放課後この図書室で、いつも見かけるうちに、話しかけてきたのはアルフォンシーネだ。

それで今では“エド”、“アル”と愛称で呼び合う程には仲良くなれた。

 

二年のクラス替えで同じクラスになれたけれども、教室内ではほぼ会話をしたことがない。

アルフォンシーネはいつも友達に囲まれていたし、エドワードには話しかける用事もなかった。

 

今までにこうして距離を縮めてこれたのは、単なる幸運な偶然だったのだ。

話しかけてきたのはアルフォンシーネで、エドワードはそれに応えただけ。

 

この先、もっと近付きたいなら、今度はエドワードから手を伸ばさなければならない。

 

それはよく、分かっているのに。

 

 

自分の手は未だ、こんな本に縋ることしかできない。

 

 

 

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―――  034.  知っているようで知らない人

 

※ 学パラ兄弟  ある意味死にネタかもしれない

 

 

 

遠くに聞こえるチャイムの音が、アルフォンスを夢の中から追い出した。

 

けれども意識はなお、夢と現の狭間を漂い、強烈な残像が脳裏を支配する。

 

薄く開いた、視界はぐにゃりと滲んでいた。

 

そこへパタパタと軽い足音が近付いてきて、屋上のドアが軋む音がした。

こんな所へ来るのは、自分とあともう一人くらいなものだ。

あ、と思った瞬間にはもう、その姿がぼやけた視界の中に入った。

 

「・・・アルっ?!」

エドワードは驚いた声を出して、壁にもたれて座るアルフォンスの側まで駆け寄った。

 

「アルっ、どうしたんだっ・・・?!」

言われてようやく、アルフォンスは自分の頬を伝う涙に気が付いた。

 

「・・・・・・なんでもない。ちょっと、・・・変な夢、見ちゃっただけだから・・・」

エドワードの指が、アルフォンスの涙を拭う。

 

「・・・父さんと、母さんのことか?」

「・・・ううん、違うよ。不思議な夢だったんだ。・・・ヨーロッパみたいな街並みの国で、僕と兄さんが二人で旅をしていたんだ。兄さんは髪が長くて、黒い服と赤いコートを着てた。夢の中でも派手だよね。あぁ、背が小さかったのも今と同じだ。」

 

ふふ、と思い出して笑うアルフォンスの頭を、エドワードはぺしんとはたいた。

 

「・・・それで?」

「んと・・・、何か探してたんだけど・・・、何だったか忘れちゃった。・・・とにかく、それのお陰で願いが叶ったんだけど・・・」

 

「願い・・・?」

「んー、それも覚えてないんだけど、すごく大事なことで・・・。だから願いが叶って、僕と兄さんはすごく幸せだった。旅を止めて、二人暮らしを始めて・・・、でもすぐに、僕が死んじゃったんだ・・・。」

 

「・・・・・・・・・・・・」

「兄さんに看取られながら、僕が言うの。今度出会うときには、兄弟じゃなければいいのにねって。」

 

「・・・なんで?」

 

少し悲しげなエドワードの声。アルフォンスの目が、どこか切なげに細められた。

 

「夢の中の僕が、兄さんを、愛していたからだよ。・・・兄弟としては、幸せだった。でも、・・・恋人としては多分、・・・少し幸せじゃなかったんだよ。」

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・最期に兄さんがキスをしてくれて、目が覚めちゃった。・・・何だったんだろうね。すごくリアルだったから、ひょっとして前世だったりして。」

少し俯いたアルフォンスを、エドワードはぎゅっと抱き締めた。

 

「・・・それが前世だとしたら、神様ってヤツは、相当いけずだな。俺達また、兄弟じゃねぇかよ。」

微かに震えている背中に、アルフォンスはそっと腕を回した。

 

「・・・でも、兄弟に生まれてきて良かったと思っているよ、今の僕は。・・・だってそうじゃなかったら、兄さんを愛することはなかっただろうし、出会うことさえなかったかもね。」

 

 

それはきっと、夢の中の僕だって同じはずだ。

 

そう呟くと、心の奥がざわめいた。

 

 

 

 

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―――  035.  檸檬色の夏休み

 

※ 現代パラレル  姉:小学三年生  弟:小学二年生

 

 

 

「姉ちゃん、自由研究のテーマ決まった?」

「まーだー」

 

ぼくは、お父さんの本だなをあさっている姉ちゃんに声をかけた。

 

姉ちゃんは本をぺらぺらめくって、おもしろそうなものを探しているみたい。

ちらかった本を見て、お母さんに見つかったらおこられそうだと思った。

だからぼくは、本をたなへと返してあげた。

 

「気になることを調べたらいいって、リザ先生が言ってたよ。そういうのないの?」

姉ちゃんはうーんと声を出して、ばんっとイスから立ち上がった。

 

「おぉ、あった!」

「へー、どんなこと?」

「えっとな、キスするとほんとにレモンの味がすんのかどうかってことだ。」

それを聞いて、ぼくの頭がはてなマークでいっぱいになる。

 

「あのな、この前ロイがそう言ってたんだ。」

 

ロイというのは、姉ちゃんのたんにんの先生だ。

いつもよびすてはだめだって注意してるのに、姉ちゃんはぜんぜんきいてくれない。

 

「よし、アル!やってみようぜ。」

「えー?ぼくもするの?」

「だってひとりじゃできねぇもん。」

「あ、そっか。でも、キスってすきな人とするんでしょう?」

「??おれはアルのことすきだし、アルもおれのことすきだろ?だったらいいじゃん。」

「んー、そっか。」

 

姉ちゃんがぼくのかたを引きよせて、ひたいをこつんとひっつけた。

 

「お母さんがしてくれるのとはちがうの?」

「あぁ。口と口でするやつな。」

 

「・・・ぅ・・ん・・・・・・」

 

 

 

「・・・あ、アル・・・レモンの味、したか・・・?」

「・・・わ、わかんなぃ・・・」

 

「じゃぁ、もう一回・・・・・・」

 

「・・・ふ・・んっ・・・・・・」

 

 

 

くちびるをはなすと、姉ちゃんのほっぺがピンク色で、いつもにらんでるみたいな金色の目がとろんとなっていた。

いつもはカッコいい姉ちゃんが、なんだかすごくかわいく見えた。

 

「姉ちゃん・・・、どうだった?」

「・・・・・・っ!・・・わ、かんねぇ・・けど、すげぇ・・・気持ちよかった・・・」

 

 

 

けっきょく、姉ちゃんはマニアックな化学実験をやって、ロイ先生をびっくりさせたみたい。

リザ先生は、ぼくがお母さんに教えてもらいながら作ったぬいぐるみをたくさんほめてくれたので、うれしかった。

 

 

キスしたことは、二人だけのひみつになった。

 

 

 

 

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―――  036.  包む腕のやわらかさ

 

※ アル:人体錬成後、女の子に  エド:軍人

 

 

 

マスタング准将からの電話を受け、アルフォンスはすぐに家を出た。

 

息を切らして病院へ駆けつけると、入り口で准将が待っていてくれた。

すぐに病室まで案内されて、扉を開ける前に視線で確認される。

 

心の準備はもういいか、と。

 

電話で詳細は告げられていない。でも、何かよくない事が待っているのは確かだろう。

 

この三ヶ月間、兄は、戦争をしていたのだから。

 

 

 

三ヶ月前、玄関で兄の後ろ姿を見送ったあの日から、すでに覚悟なら出来ている。

 

 

扉を開けて中に入ると、兄はベッドに横になっていた。

 

肌よりも、白い包帯のほうが目立っている。顔も、左眼と口元が出ているくらいで、消毒液の匂いが鼻についた。

ぼんやりと開いた左眼はどこか焦点が合っておらず、人の気配にも気付いていないようだった。

 

「・・・命に危険がある、という程の傷ではない。」

「・・・はい。」

 

「だが見ての通り、精神面では、・・・危ないかも知れん。」

「・・・はい。」

 

「・・・・・・君の兄は、戦場ではよくやっていてくれた。いくつも成果をあげたわりに隊の損害は最小限で抑えて、仲間を守り、部下からの信頼も厚かったという。」

「そうですか・・・。」

 

「帰還する際にも、みなを率先して励まし、私への報告もしっかりと済ませて、その時はいつものように見えたのだがな・・・。」

そこで准将は、言葉を切った。アルフォンスの苦笑が零れる。

 

「・・・多分、緊張の糸が切れちゃったんでしょうね。」

愛おしげに、アルフォンスがエドワードの頬に触れる。

 

「・・・兄さん、僕だよ。アルフォンスだよ。分かる?」

その声に反応して、金の瞳が小さく揺れた。

 

「・・・・・・アル、俺・・・」

「・・・なぁに?」

優しい声音に、何かを耐えるような表情になる。

 

「俺、たくさん・・・人を、・・・ころしたんだ・・・」

「・・・うん。」

 

「・・・こんな、穢れた手じゃ・・・もう、・・・アルを・・・抱き締めることなんか、できない・・・」

 

そう、掠れる声で搾り出すと、目尻が雫で濡れていた。

そんな兄の身体に覆い被さるようにして、アルフォンスはエドワードを抱き締める。

 

「大丈夫だよ、兄さん・・・。兄さんが抱き締められないのなら、僕が兄さんを抱き締めてあげる。・・・僕、あの日に言ったよね?誰かに兄さんが殺されてしまうなら、その誰かを殺してでも生き延びて帰ってきて欲しいって。綺麗事なんか、いらないって。だから僕にも、兄さんの罪を背負わせて。・・・お願いだから。」

アルフォンスは傷にさわらないように、身体を寄せた。

 

「兄さん、約束を守ってくれて、ありがとう。」

「・・・約束・・・・・・、生きて・・・アルの元に、帰ってくること・・・」

 

「うん。・・・おかえりなさい。」

「・・・っ、・・・ただいま・・・」

 

懐かしい兄の匂いに混じって、血と戦場の香りが漂ったような気がした。

 

 

アルフォンスは瞳を閉じて、思う。

 

戦場にて、自分もこの人の隣にいられたのなら、同じだけの罪と罰と傷を分け合うことが出来たのに・・・。

 

 

 

「・・・大丈夫だよ、兄さん。今日からはずっと、側にいるからね。」

 

 

 

 

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―――  037.  やさしいあくま

 

      現代パラレル?

 

 

 

僕の不運が始まったのは、小学五年生の時だ。

 

いや、生まれた時からすでに不運だったのかもしれない。

なにせ両親は僕だけ置いて、さっさと天国へ行ってしまったのだから。

 

しかし、それは僕のせいではないので、いったん置いておこう。

僕が自分の手で不運を招いてしまったのは、小学五年生の夏休み、図書館で古い一冊の本を開いてしまったことによる。

 

なぜ、その本を手に取ったのかは分からない。引き寄せられるような、不思議な感じがあった。

 

埃で汚かったけれども豪華な装丁の本で、表紙には知らない文字が記されていた。

それを恐る恐る開いた途端、辺りは闇に包まれて、ページの間から光が零れる。

 

それは徐々に形を成し、金髪の黒いマントを羽織った男の人が姿を現す。

ぱっと開いた瞳は金に輝き、つかの間僕を凝視した。

僕だって目が離せない。

なにコレ、どんな3D?と目を丸くしている間に、男の人は完全に本から出てきて僕の前に跪いた。

 

「お前、名前は・・・?」

「・・・・・・アルフォンス」

 

「アルフォンス・・・、俺はエドワード。・・・“悪魔”だ。」

「うそ・・・」

 

「嘘じゃねぇ。」

「・・・本から、出てきた?」

 

「あぁ。コレを開いたが最後、ソイツの魂は、俺のものだ。」

自称“悪魔”はちらりと本に目を向けて、再びアルフォンスを凝視する。

 

「魂って・・・、僕・・・死ぬの?」

「そうだな・・・、肉体が死んだ後に残るのが、魂だ。・・・悪魔はソレが、大好物なんだ。」

目の前の悪魔は、ペロリと舌を出した。

 

「だけど、悪魔が魂を食べるには条件がある。本を開いた人間の、願いを叶えてからでなければならない。」

「つまり、・・・僕の願い?」

 

「そうだ、アルフォンス。・・・お前の願いは、いったい何だ?」

 

 

 

 

 

それから僕と悪魔の、奇妙な共同生活が始まった。

 

悪魔――エドは、僕に憑いているらしく、何処にいても僕のことが分かるらしい。

 

最初の頃は、ふらっと見えなくなったかと思えば突然現れたりして、早く願いを言えとせっついた。

そのくせ僕が願いを言うたびに、それは気に入らないだとか面倒だとか、そんなんじゃつまらないなどと文句を言って拒否をする。

 

僕がうんざりして願いを言わなくなった頃には、エドの存在は大して気にならないほど馴染んだものになっていた。

 

やがて僕が中学生になると、また違う親戚の家に預けられることになった。

こうやってたらい回しにされるのは四回目で、さすがにもう嫌気が差した。

 

荷物を抱えてとぼとぼ歩く僕の後ろを、エドがふわふわと付いてくる。

道すがら、久しく口にしていなかった願いを思い付き、振り返ってエドに伝えた。

 

「ねぇ、僕・・・自分の家族が欲しい。」

 

また却下されると思っていたのに、エドは瞳を輝かせて頷いたのだった。

 

 

それからあっという間に、勝手に事は運んでしまった。

 

エドと僕は小さなアパートで二人暮らしをすることになり、エドはいつの間にやら、身寄りのない甥を引き取った叔父ということになっていた。

僕に叔父などいないのに、どうしてだか戸籍上でもそういう事になっていた。

おまけに僕にしか見えていなかった姿が、他の人にも見えるようになっていた。

エドは悪魔の時よりも大人びた容姿になり、二十代後半くらいに見えた。

 

僕は死んだ両親の幽霊にでも逢わせてくれる、ぐらいのものだと思っていたので(死者を蘇らすのはダメらしい)、まさか悪魔に家族として養われることになるなんて思ってもみなかった。

 

なんて、不運な人生なんだろう・・・。

 

 

 

 

 

僕はもうすぐ、高校を卒業する。

 

進学する大学は家から通える距離なので、悪魔との二人暮らしはまだ続くらしい。

僕は、目の前の人を見やる。

 

「ねぇ・・・、いつまでこの“家族ごっこ”を続けるの?」

エドは少し、眉をひそめた。

 

「家族ごっこ、じゃなくて、本当の家族だろう?俺達は。・・・血は繋がってなくても、愛情があれば家族になれるんだろう?人間って生き物はさ。」

 

“愛”だなんて、まるで天使のような言い草に、心底驚く。この人、本当に悪魔なんだろうか?

 

「ねぇ、僕の願いを叶えたら、それで魂を食べてもいいんでしょう?だったらもういいよ、十分だ。」

「どうしたんだ?・・・そんなに、死に急いで。」

 

「・・・・・・僕はあの時、願いが叶えば死ねるって思ったから言っただけなのに。」

 

 

 

僕のか細い声が、リビングに沈黙をもたらした。

 

しかしそれも束の間のこと、がしがしと頭を撫でられた。

その温かな掌に、ふいに涙が滲んでくる。

 

・・・あぁ、本当に止めて欲しい。そういうことは。

 

 

 

本当の家族みたいだと、思いたくなってしまうから。

 

 

 

 

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―――  038.  電子音が奏でるソナタ

 

※ 現代パラレル  アル:一人暮らしの大学生

 

 

 

僕は机の上にスペースを確保してから、丁寧にパッケージを開封した。

 

梱包材の中からソレを取り出して、まずはよく見た。

全長20cmの、一見フィギュアのようなソレは、小型のアンドロイドだ。

 

一口にアンドロイドといっても種類や性能がたくさんあって、僕が買ってきたのは、女の子の形をした娯楽用のものだ。

音楽に特化した機能がついていて、歌を歌わせたり楽器を弾かせたりできるらしい。

まぁ、単に会話を楽しむというのもアリで、僕も一人暮らしのちょっとした淋しさが紛れればいいかと思って買ったのだった。

 

アンドロイドは長い金髪をツインテールにし、前髪も真ん中で分けている。

肌は白く滑らかで、本物の人間の肌のようだ。

顔立ちも整っていて、スタイルもいい。

まぁ、当然と言えば当然なのだが、とてもかわいいと思う。

 

説明書を読みながら、店でのやりとりを思い出して少々不安になる。

このアンドロイドはもともと中古品だったので新品よりだいぶ安かったのだが、ずいぶん長く売れ残っているらしくてさらに安くなっていた。

店員曰く、プログラミングされている性格がちょっと変わっているとのことで、あまり万人受けはしないのだそうだ。

 

うまくやっていければいいんだけどと思って、起動スイッチを押す。

 

数秒後、ぱちりと目が開いた。

綺麗な金眼だ。だけどすごく、目付きが悪い。

 

「お前が新しいマスターか?」

 

・・・ついでに、口も悪いみたいだ。

 

「おい、離せよっ!」

 

今度は体を掴んでいる僕の手を、ぱしぱし蹴ったり叩いたりしている。

どうやら、手癖も悪いらしい。

これは、かなり変わっているというのは本当のようだ。

 

僕が机の上に降ろしてやると、アンドロイドは仁王立ちで僕を指差した。

 

「俺はエディだ。お前、名前は?」

「・・・アルフォンス、だよ。」

 

エディは僕をジッと見て、“アルフォンス”と口に出した。

それで、僕がマスターだと認識されたようだ。

 

「俺は、お前なんかに買ってもらったって、別に嬉しくなんかないんだからな!」

「・・・・・・あ、そう」

 

僕は、面倒くさいモノを買ってしまったかもしれない。

 

「だいたい、俺は人間なんかキライなんだ!機嫌いい時じゃないと、お前の言うコトなんて聞いてやんないから、覚えとけよ!」

「・・・うん」

 

僕はさっそく、返品したくなった。

 

「・・・で、でも、気分のいい時だったら、お前の好きな歌を歌ってやってもいいぞ。」

「・・・・・・・・・」

 

エディはなぜか、自分で言った言葉に照れている。

僕は、一応これからよろしくと言う意味で、エディの頭を優しく撫でた。

すると、ぎゃーーっという叫び声。

 

「気安く触んなっ!セクハラだぞっ!!」

 

僕は若干引きぎみで、どうしたら良いか分からなくなった。

 

「優しくされたって信じないんだからなっ!人間なんてどうせ、飽きたらすぐ捨てんだろっ!お前だって、どうせっ・・・!」

 

エディは顔を赤くして、必死に涙を堪えている。

ぎゃーぎゃー喚きながら、近くにあった僕の右手をぽかぽか殴った。

 

「なんだよ、人間なんてっ・・・!俺はただ、好きな歌を歌いたいだけなのにっ・・・!」

 

とうとう、ぎゃーぎゃー言ってたのがぐすんぐすんに変わってしまった。

僕は無言でエディを捕まえて、立ち上がった。

 

「ぎゃー!!てめぇっ、おっぱいもケツも触ってんぞ、この変態め!!」

 

・・・とりあえず、無視だ無視。

 

部屋の隅に置いてある電子ピアノに腰かけて、譜面台のところにエディを置いた。

ピアノを見て、エディはあっという間に大人しくなった。

 

僕の指が鍵盤の上を跳ねて、スローテンポな曲が流れていく。

 

「・・・ほら、歌ってよ?」

「・・・・・・コレ、何の曲だ?初めて聞く音だ。」

「そりゃあ、そうだろうね。僕が即興で弾いてるんだから。」

 

小さな声で、エディが“すげぇ”と零している。

 

「歌詞なんか、ないよ。エディの好きなように歌えば良い。」

 

エディは瞳をキラキラさせて、こくこく頷いた。

この様子だと、本当に歌うのは好きらしい。なんて分かりやすく顔に出るんだろうと、ついつい笑いそうになってしまった。

 

やがて奏でられた歌声は、お世辞にも上手いとは言えないけれども、これはマスターと一緒に練習すれば上手くなるという仕様だったはずだ。

まぁ、本人が満足そうに歌っているので、別に今のままでもいいのかもしれない。

 

 

大事にするよ、エディのこと。

気に入ったからね。

だから安心して、歌えばいいよ。

 

 

そう言ってまた頭を撫でたら、今度は赤くなって大人しくされるがままになっていた。

 

 

 

 

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―――  039.  君が微笑めば、僕は泣く

 

※ 旅の途中  姉弟

 

 

 

今にも降り出しそうな空の下、買い物から帰ってきたアルフォンスは、宿の部屋の扉をゆっくり開けた。

 

それは中にいる人物が、もしかしたら眠っているかもしれないと思ったからだ。

 

しかし、それに反してベッドは空っぽで、きょろきょろ室内を見渡すと窓際のソファの上に姿があった。

昨日、図書館から借りてきた本を膝に乗せたまま、ぼんやり空を見上げている。

 

「兄さん・・・」

アルフォンスの呼びかけに、返事はない。

 

「兄さん・・・!」

さっきよりも大きな声で呼んでみたのだが、駄目のようだ。

ガシャンガシャンと音を立てて、ソファへと近付いていく。

 

「・・・姉さん」

 

その声に、ビクリと肩を揺らして、エドワードがこちらを向いた。

 

「・・・あ、アル・・・、帰ってたのか・・・」

「安静にしてて、って言ったでしょ?」

 

少し怒ったように言うと、エドワードは全然そんな風には思っていないだろうという顔で“悪い”と口にした。

 

「こんな傷、大したことねぇのにアルが大げさなんだよ。」

そんな風に言うエドワードに、アルフォンスは心の中で溜め息を吐いた。

 

「全く・・・、放っておけないのは分かるけど、凶器持った強盗犯に一人で突っ込んでいくなんて、どうかしてるよ。」

「だーかーらー、ごめんって。ちょっと油断してたから、もう一人いるのに気付かなかったんだよ。」

 

「本当、僕の身にもなってよね。騒がしいから駆けつけてみれば、兄さんが血流して床に倒れてるし。・・・凄く、怖かったんだからね。」

 

アルフォンスは、ぎゅっと掌を握り締めた。

口では兄を責めるものの、本当に叱咤したいのは、その場に居なかった自分自身だ。

自分が兄を守らなければならないというのに、よりにもよって・・・・・・

 

「・・・顔に傷作るなんて、本当にバカだよ。」

包帯の巻かれた、左肩と左の頬を見やる。

それは三十分程前に、アルフォンスが手当てしたものだ。

 

「だから、反省してるって言ってるだろ!兄貴に向かって、あんまりバカとか言うな!」

「バカだからバカって言ってるの!もう!傷跡が残っちゃったら、どうするの?!」

 

「・・・・・・・・・はぁ?」

予想外の言葉に、エドワードは意味が分からないといった顔でアルフォンスを見た。

 

「“姉さん”は、“女の子”なのに!傷跡だらけで、お嫁に行けなくなっても知らないからね!!」

「・・・・・・っ!」

 

アルフォンスは言い終わってからハッとして、自分の口を押さえたのだが、もう遅い。

あぁ、何ていうことを言ってしまたんだろう!

エドワードが女らしさを捨てたのも、戦闘で身体を傷付けてしまうのも、全てはアルフォンスを元の身体に戻すためだというのに・・・。

 

「・・・ごめん、なさい・・・」

 

合わせる顔がなくて俯いたまま、か細くそう呟くと、カシャンと腕を引っ張られた。

エドワードの金の眼は、笑ってこちらを見上げている。

 

「もし俺が、三十過ぎても結婚できなかったら、アルがお嫁にもらってくれよな!」

「・・・えぇっ?!」

 

「姉ちゃん、アルのお嫁さんになるんだったら、大歓迎だぞ!」

「・・・ね、姉さんっ?!」

 

上擦った弟の声に、エドワードはとうとう笑い出した。

 

「冗談だってば!・・・アルは、アルの好きな人と結婚すればいいよ。俺のことなんか、気にしなくていいからさ。」

 

「・・・僕、は・・・・・・」

 

 

窓の外では、雨がザアァ・・・と降り出した。

 

 

 

 

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―――  040.  独りの重さ

 

※ 軍部兄弟  結構エロいかも・・・というかエロだな、これは

 

 

 

カッと、頭に血が上ったのだ。

 

大人気なかったと、少しは反省している。

 

 

たまたま司令部の廊下で擦れ違った弟が、よりにもよって弟に気があると噂になっている女と楽しそうに喋っていたせいだ。

弟は案外鈍いから、女が色目使ってるのに気付きもしねぇでニコニコしてやがった。

 

お前のそういう態度が、女共をその気にさせてんだってどうして分かんねぇんだよ、バカ!

 

俺の手は半ば衝動的にアルフォンスの手首を捕まえて、力一杯引っ張っていった。

 

 

 

早足で廊下を進みながら、痛いとか待ってとか言われたけど無視だ、無視。

 

人気の無い倉庫に連れ込んで、入り口にはきっちり鍵をかけた。

誰かに見られたくなかったからじゃない。ただ単純に、誰にも邪魔されたくなかったからだ。

 

アルフォンスを机の上に押し倒して、側にあった電気スタンドを付けた。

窓のない書庫の中、小さな濃いオレンジ色の光がアルフォンスを照らす。

 

頼りない明かりは影とのコントラストを強調してある種、陽の元で見るより淫靡に映った。

 

何だか余計に興奮してきて、自然と口元が吊り上った。

今、鏡を見たら、すげぇ凶悪面してんだろうなぁ。

 

上着に手をかけて思い出す。

そういえば、仕事中に軍服でヤんのは久しぶりだ。

とは言っても、家以外で致すコトなんて、おカタいアルのせいで数える程しかねぇんだけどな。

 

せっかくだからなるべく脱がさないようにして、たいして慣らしもせずに突っ込んだ。

 

そしたらまぁ、狭いし痛いし辛いワケで。当然、それは俺よりアルの方が酷い。

愛しい弟は苦痛に顔を歪めては、必死に耐えていた。

そんな顔にすら欲情する俺は、大概イカレてる。

 

このまま動いてやろうかなんて意地の悪いことを思ってから、ふと、アルの手が視界に入った。

きつく握り締められた掌が震えている。

 

あぁ、そんなにしたら爪で傷付けちまうだろ、と舌打ちして、アルの両手を俺の肩に掴まらせた。

そしたらアルの奴、思いっきり力入れて爪立てやがって、思わず呻きそうになった。

 

仕返しかと思って顔を窺ったら、まだ辛そうな表情のままで、どっちなのか分からない。

 

快楽のないセックスはただの暴力だ。

そんなことを、思う。

 

というワケで、アルへのお仕置きはこの位にして、今度は快楽を追いかけるためにアルフォンスを攻め立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

きれいに後始末をして軍服を着せてやったが、アルフォンスは起き上がらない。

 

「・・・痛い、・・・無理、・・・立てない」

か細い声で、そう呟く。

 

「今日はもう、早退すっか?ロイの野郎には連絡しといてやるよ。仕事サボってセックスしてたら、腰が立たなくなりましたってさ。」

俺はからかうように、そう返す。

 

「・・・・・・・・・・・・一発、思い切り殴っていい?」

「却下。」

 

「なんで拒否するの?」

「殴られてやる理由、無ぇだろ。」

 

「無いの?強姦したくせに?」

恨みがましいアルの声に、俺はハッと鼻で笑った。

 

「どう見ても合意の上でのセックス、だろ。強姦だと思ったんなら、ヤる前に殴ればよかったじゃねぇか。お前が本気で抵抗したら、いくら俺だって勝てねぇよ。けどお前は抵抗しなかった。つうコトは、合意したってことだろう?」

グッ、とアルフォンスが言葉に詰まる。

 

「・・・・・・・・・じゃあ、わざと痛くしたことについて殴らせて。」

「後から、いつも以上に気持ちよくさせてやっただろ。それでチャラだ。」

むう、とふくれたアルフォンスの機嫌は直らない。

 

「なんだよ、アル。すげーよがってたクセに。家でヤんのより興奮しただろ?」

はぁ、と溜め息の音。

 

机の上に寝そべったまま、アルフォンスが俺を見上げる。

 

「・・・兄さん、自分がどんな顔してたか自覚ある?たったあれだけのことで、独占欲と嫉妬心剥き出しにしちゃって・・・。ホント、可愛いよ。・・・ゾクゾクしちゃった。」

 

ふっと妖艶な笑みを浮かべる唇を、俺は今日初めてがっつくように貪った。

 

ワザと避けていた分を埋め合わせるように、長く、激しく。

繋ぎ目からいやらしい水音と、鼻に抜けるような喘ぎが辺りに漂う。

 

さすがに酸欠で苦しくなった頃、ようやく離れる。

 

どちらも肩で大きく息をしながら、どちらともなく笑みが零れた。

 

 

 

「・・・俺さ、いつもこのまま、アルの中に溶け込めばいいのにって思うんだよ。」

「ふぅん。・・・僕はイヤだけど。」

 

「・・・おい、何でだよ!」

「だって二人が一つになっちゃったら、キスもセックスも出来なくなるじゃないか。」

 

「・・・あぁ」

「それにね、この気持ちをひとりで抱えていくなんて無理。兄さんと二人で分け合って、ちょうどいいくらいの重さになるんだから。」

 

「・・・確かに。」

 

 

 

俺はちゅっと触れるだけのキスをして、上司への言い訳を考え始めた。

 

 

 

 

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