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毒入りイチゴショートって甘いのかな、 それともやっぱり、苦いのかな・・・?
――― Sweet Strawberry Shortcake ――― 〜 スウィート ストロベリー ショートケーキ 〜
――鋼の・・・君は世界が滅んでも、生き残っていそうだよ。
夕食後のお茶を飲みながら一息ついていたところ、不意に無能上司から言われた言葉を思い出した。 せっかくアルが美味いお茶を入れてくれたのに、無能上司の顔を思い出して少しむっとなった。 大体、そんなセリフを女の俺に言うこと自体間違ってるだろ。 お前らにとって俺は何なんだ?怪物かなんかだと思ってんのか?
・・・まぁ、確かに、俺が普通の女とかけ離れてるのは認める。うん確かに、普通の女は厳つい五人組のしかも凶器を持った強盗犯を、意識飛ぶまでボコボコにしたりはしない。 それに俺のその時の格好も、インパクトあり過ぎたのかも知れねぇな。俺は18歳になったけど相変わらず小柄なままでガキみたいだし、軍服は着てたけどミニスカートの方だったし、その軍服には犯人共の返り血がついてたし・・・。よく思い出してみると、ちょっと怖い状況ではあったかもしれないな。 でもまぁ、そんなおいそれと死んでたまるか、とは確かに思う。 軍に入ってからは特に、自分だけは絶対生き残ってやると思いながら任務に当たっている。 少々冷たい気もするが、当然だろ? もし俺が死んじまったら、大事な弟が独りぼっちになっちまう。 それだけは、耐えられない。 弟は優しいから、俺の死を悲しんでくれるだろう。何たって俺とアルフォンスはたった二人だけの家族だし、俺達は愛し合っているのだから。 それに弟は顔には出さないが、一人になるのを怖がっている。俺達は二人とも、独りになるのがどれだけ恐ろしいかをよく知っているから。
俺は大事な弟に、そんな辛い思いをさせるわけにはいかないんだ。 俺が一生をかけて弟を守るって、決めたんだから。
――やれやれ本当に君は、殺されても死にそうにないな。
これは、さっきのセリフの後に言われたやつだ。まったくどれだけ失礼なことをほざけば気が済むんだ、あの無能上司は。こっちは一生懸命、あの男をサポートしてやってるって言うのに。 いくら俺でも、殺されても死なないなんてそんな訳あるかよ。 俺だって普通の人間だっつうの。 まぁ、もし殺されそうになったとしたら、そんな簡単には殺されてやるつもりはねぇけどな。 犯人の思い通りになんかなってたまるか。 つうかそんな奴、さっさと返り討ちにしてやる。んでもって恐ろしい地獄を見せてやるよ。
・・・けどもし、もしもその犯人がお前だったら。 ・・・もしも犯人が俺の弟――アルフォンスだったら。
俺は、誰よりも大人しく殺されるだろう・・・。
なんせ、この世で唯一俺を殺す事が出来るのは、お前しかいないのだから。
お前に殺されるんだったら、それはそれで悪くない。 犯人がお前なら、俺の死因はいくらでも思いつく。殺し方だって、選び放題だ。
俺のコト簡単に殺せるよ、お前なら・・・。
何なら例でも挙げてみるか? まずは正攻法で体術勝負。これならお前、楽勝だろ? 俺、お前に一回も勝った事ねぇし。 錬金術勝負だったら微妙だけど、俺は多分お前を傷付けられない。 どっちにしろお前が本気なら、殺されるのは俺の方で決まりだ。
じゃあ次は、毒殺っていう手があるな。これはさっきのより簡単だろ? お前が用意するのは、毒入りシチューをすくったスプーン。たったそれだけ。 お前はそれ持って笑顔で、「はい姉さん、あーん」って言えばいいだけ。 それを俺が拒むはずは無いだろ? シチューの他には、自分の口元に毒入りクリームでも付けて、美味しそうにイチゴショートとか食ってろ。 そしたら俺は確実に、そのクリーム舐め取るから。
あれ、でもこれって、俺が食ってすぐお前にディープキスとかしたら、お前も危ねぇのかな? 俺たぶん、キスもすると思うんだけど・・・。 お前も巻き込んじまうのはイヤだなぁ。お前も一緒に死にたいんだったら、大歓迎だけど・・・。 でもやっぱりお前には、なるべく長く生きてもらいたいよ。せっかく取り戻した体で、幸せになってもらいたい。 ・・・という訳で、それを避けるために、入れる毒はスゲー即効性のある奴を選ぶコト。 それか、キスは上手に避けるコト。 分かったな?
そう言えば、絞殺っていうのもアリだな。 俺は絶対、抵抗とかしねぇから、心配しなくても平気。 むしろ、そんなことしてる暇とか無いし。 なぜなら俺は、お前のその綺麗な手で触れられるだけで、動けなくなるから。 そして俺の首を絞める指にさえ、欲情してるから・・・。
・・・それじゃあ最後に、一番簡単なヤツ。 それは、お前がその愛らしい唇で、「姉さん死んでくれない?」って言うだけ。 たったそれだけ、簡単だろう? その後で「そしたら僕、幸せになれるんだ」とか、俺の喜びそうな理由、適当に付けてさ。 ほら、俺ってお前のこと世界一愛してるし、お前のためなら何でもするし、お前のためなら死ねるし。
ほら、簡単だろ? 俺の命を握ってるのはいつだって、お前なんだから。 俺を生かすも殺すも、お前しだいなんだよ・・・。
「・・・何、姉さん?そんなじっと見られてたら、食べにくいんだけど。」 「えっ?あっ、わりぃ・・・。」 アルフォンスの声で、俺の思考は現実に戻ってきた。いつの間にか向かい側のソファにアルフォンスが座っていて、じっとこっちを見ていた。その手にはフォークで一口大に掬われたショートケーキ。 ・・・そう言えば、前から食べたかったイチゴショートがやっと買えたんだと、夕食の時に嬉しそうに話してたっけ。俺はあんまり食うと太るぞ、なんてからかったような気がする。 体を取り戻してからのアルは、食べることが楽しいらしくて、色んなものを食べるようになった。それに伴って自分で料理をするようになり、元々器用なアルの料理の腕前はぐんぐん上がっていった。今では料理も家事も、アルフォンスがやっている。まだ大学生なのだから友達とも遊びたいだろうに、いつも俺の帰宅時間に合わせて食事の用意をしてくれ、家事も疎かにしたことは無い。
「もしかして、姉さんも食べたいの?」 「へっ・・・?」 「もう、しょうがないなぁ。ほら口開けて?」 アルがこちらに向かってフォークの先を差し出した。俺は別にそういうつもりじゃなかったのだが、アルがにこにこと楽しそうにしているので、大人しく口を開けた。 口の中に広がる甘い味。それと同時に、さっきの考えもが脳内に広がった。 毒入りのイチゴショートは果たして、甘いものなのだろうか・・・?
「どう、おいしい?」 「・・・うん。」 期待を込められた目で見られて、何となく・・・不安になった。 「よかった。今度は姉さんの分も買ってくるね。」 今日はこれ一個しか残ってなかったんだ。それに姉さんって普段、あんまり甘いもの食べないじゃない。と、そんな事をしゃべりながら、アルフォンスは自分の分をフォークで掬おうとしている。
「・・・・・・アル、キスしてもいい?」 俺はたまらなくなって、そんな言葉が口から零れた。 「別にいいけど、急にどうしたの・・・?」 アルフォンスは少しびっくりしていたが、キスが嫌だとは言わなかった。
隣に座って、いつもより長くて濃厚なキスをした。 これなら一緒に死ねるのかな、なんて考えながら・・・。 ・・・やっぱり、甘かった。 アルフォンスの口内も、合間に零す吐息も、小さく俺を呼ぶ声も、何もかもが全て。
少し息が上がってきた頃になって、やっとアルフォンスを解放した。その頬は薔薇色に染まり、目元は微かに潤んでいる。 イチゴショートより、断然お前の方が甘くて美味いよと思った。 「・・・今日のキスは甘かったね。イチゴショートの味だった。」 「・・・・・・おいしかったか?」 「うん、とっても。」 アルフォンスはそう言って、無邪気に微笑んだ。
結局のところ、当たり前だが俺は死ななかった。 そんな考えは馬鹿みたいだと思ってはいたけれど、死ななくて少し、ほっとした。 アルのために死ぬのも、アルに殺されるのも、二人で一緒に死ぬのも厭わない。 だけど今、自分が生きていることにほっとする。 生きて、アルの傍に居られることが嬉しかった。まだ生きて、アルの傍に居たいと思った。
そして、アルに殺されなくて良かったなぁ、と思った。 アルは絶対にそんなコトしないって、分かっているけれど・・・。 けれどそれはつまり、アルに生きていることを許可されたということのように思えて、嬉しかった。 アルに必要とされているということが、幸せだった。
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