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僕はアルフォンス・エルリック。今年で16歳。 心はれっきとした男なのだが、今の僕の身体は女の子のものだ。 理由は分からないけれど、人体錬成の結果、性別が変わってしまったのだ。 本当になんでこんなことになってしまったんだろう? 一体なにがいけなかったんだろう?
(・・・しばしの沈黙。)
なんだか今、原因という二文字と共に、兄さんのにへらっとした笑顔が浮かんできた。 あぁ・・・。 きっと、いやたぶん、いや絶対、原因はあの腐れ兄貴だ・・・。 なんか悲しいけれど、間違いない。
――― 日 常 幸 福 論 ――― ちょうど半年前、僕らは2度目の人体錬成を行った。 そして僕は、無事に体を取り戻す事に成功した。 けれど、その体はどう見ても少女のものだったのだ・・・。
人体錬成の直後は、さすがの兄さんも僕と同じぐらい動揺していた。 何でこんな事になったのか必死で考えて、しまいいには今にも泣きそうな顔してごめんなんて謝るから、僕はもういいよって言ってなだめたんだけど・・・。 たぶんそれがマズかったんだと思う。 あぁ、もっと泣いて怒ってわめいとけばよかったよ。 そしたらあの腐れ兄貴もおとなしくしてただろうに・・・。 悔しい。 あの日に帰りたい。
昨日の泣きそうな表情とはうって変わって、翌日の兄さんからは幸せ♡オーラが出まくっていた。 兄さんは僕が女の子になってしまったのが、結果オーライ的だが本当に嬉しかったらしい。 あの人、順応性高いからね。 あと、自分に都合のいいことに関してはポジティブシンキングだし。 まだショックから立ち直れていない僕にはバレないように一生懸命隠そうとしていたが、にじみ出るにへらっとした笑顔がすべてを台無しにしていた。 人の不幸を嬉しがる様というより、あのキモイ笑顔に腹が立って仕方なかったので、僕はそこらにあった本を投げつけた。 そして本は見事に兄さんの顔面をとらえた。 ごめんね本。あんたは悪くない。 悪いのは兄さんなのに。 あぁ、何で兄さんはこんな風になっちゃったんだろう・・・?
「なぁアル、さっきからずっと同じとこ読んでねえか?」 僕の思考をさえぎって、兄さんが話しかけてきた。 少し離れて座っていた兄さんは立ち上がって、ソファーに座って本を広げていた僕の隣に腰を下ろす。 「・・・ちょっと考え事してただけ。」 僕は何でもないように、さらりと返事をする。 「何考えてんだ?」 兄さんは僕の顔を覗き込んで、また尋ねる。その顔が必要以上に近い。 本人は自然にやったつもりだろうが、下心が丸見えだ。 僕は心の中でため息をつきながら、ある意味正直に答える。 「・・・どうすれば兄さんのウザさから解放されるんだろう?とか」 「・・・兄ちゃんがウザい?!お前そんな風に思ってたのか?!」 兄さんは目を見開いて、さも傷付いたようなリアクションをとった。 「思うよ、普通は。一日中つきまとわれて、ジロジロ見られて、スキンシップとか言われてセクハラうけりゃ、誰だってそう思うよ。」 「これは兄ちゃんの愛だ!!お前にはわかんねえのか?!」 兄さんは傷ついた様な表情で両手を広げ、僕に抱きつこうとしてきた。 僕は持っていた本で兄さんを殴り倒す。 ごめん本。あんたは悪くない。 悪いのは兄さん。そう、兄さんが全部悪い。
人体錬成の後で体を調べてみたが、どこにも異常は見つからなかった。 性別を戻す方法を探そうか、と兄さんが尋ねてきたけど、僕は首を横に振った。 僕が望めば、兄さんはまた一生懸命に方法を探してくれたと思う。けれど僕はもうこれ以上、兄さんに無茶をして欲しくはなかった。 たとえ性別が違ったって、この体は生きている。 それだけで十分だと思えた。 そうして僕は、女の体で生きていく事を受け入れた。
最初は戸惑う事も多かったけど、それにもすぐ慣れた。 兄さんは僕の体をすごく気遣ってくれて、やたら体を支えてくれたり、抱きしめてくれたり、手を握ってくれたりした。 スキンシップの意味も込められたそれが、最初は素直に嬉しかったのだけれど・・・。 体が丈夫になってもなお、兄さんの過剰なスキンシップは続き、しまいに「アルは柔らかくて温かくて気持ちいいよな」なんて言い出した。 そうして僕は、兄さんの下心にようやく気付いたのだった。 だからあんなに嬉しそうだったのか、なんて納得しながら・・・。
僕に触れてくる時の、兄さんのあの極上の笑みを見ていると、僕が妹になったのは故意なんじゃ・・・とさえ思えてくる。 あぁ、恐ろしい。 多分、近親相姦っていう問題はもうどうしようもないから、男同士っていう問題を解決しようとした結果がこれに違いない。 あぁくそっ、何で僕が・・・。解決したいんだったら兄さんが女になればよかったのに・・・!
(・・・・・・また、しばしの沈黙。)
やっぱダメだ。兄さんが女になるなんて考えらんない。ありえない。絶対無理。 僕の方が顔は母さんに似てるんだし、性格もいいし、女になるなら僕の方が向いてるかも。 あぁ、僕の方でよかったよ。
(・・・・・・沈黙、そしてため息。)
論点ズレてきたな、問題はそこじゃなかったハズ。 悩んでいるスキに、復活してきた兄さんに抱きしめられた。 こんな時ばかりちゃっかりしている兄さんに、僕はまた、ため息がこぼれた。
「なぁアル・・・。」 いとしそうに僕を呼ぶ、兄さんの心地良い声。 「なに、兄さん・・・。」 僕だけを見てくれる、兄さんのキレイでまっすぐな瞳。 「・・・愛してる。」 大事そうに抱きしめてくれる、兄さんの優しくて逞しい腕。 「・・・・・・うん。」 僕だけに向けられる、兄さんの特別なあったかい笑顔。 それらは兄さんが僕にくれる、大切でかけがえのないもの。 僕だって兄さんと同じくらい、兄さんの事を愛しいと思ってるんだよ・・・。 「・・・だから、」 「・・・うん?」
「・・・・・・アル、セックスしよう。」
・・・・・・・・・やっぱり、前言撤回。 せっかくの雰囲気を台無しにする言葉に、ふつふつと怒りが込み上げてくる。 あぁもう、何でこんな時にそんなコト言うかな?! 珍しくロマンチックなシチュエーションだったのに! 兄さんのこと格好良いなんて思ってしまった僕がバカみたい・・・。
「・・・・・・そのセリフ、何度言えば気がすむ訳?何回もイヤだって言ったと思うけど?」 兄さんは抱きしめた腕を緩めて、互いの顔が見える位置まで身体を離した。 いつのまにか真剣な顔をしている。
「・・・アル、今すぐじゃなくていいんだ。アルがしたくなった時でいい。アルが自分の身体のことを受け入れて、心の準備ができるまで、俺は待つからさ。アルがもういいって思えたら、セックスしよう。そしたら、身体と感覚があること、もっと実感できるし、俺のアルへの愛をもっと伝えられるだろ?」 そう言って兄さんは微笑んだ。 見とれてしまうくらい、きれいな顔で。
今までも何度か兄さんは、僕にセックスをしようと言ってきたことがある。 でも僕は毎回、嫌だと言って突っぱねた。 兄さんは僕がセックスを拒むのは、本当は女の体を受け入れ切れていないからだと思っている。 僕がそう思うのは当然だと兄さんも分かっているから、それ以上は無理強いしてこない。 兄さんは僕が自然に振舞えるようになるまで、待ってくれている。 いつもは自分勝手なくせに、そんなところは優しい兄さん。
でもね、僕が拒むのは単に意地を張っているだけなんだ。 だって何となく、悔しいし理不尽じゃない? 僕だけ女の子になっちゃって、兄さんに翻弄されて、兄さんのペースで何もかも進んでいくのが。
思えば僕は、兄さんからちゃんとした告白とかされていない。 鎧だった頃から兄さんは僕に、好きだとか愛してるだとか言っていたのだけれど、その頃の僕はそれを家族としての愛情だと思っていたのだ。 だから、僕も家族として兄さんのことが好きだよという意味で、うん僕もと返していた。 でも兄さんは勝手に僕と相思相愛だと思っていたらしい。 本当に兄さんは自分に都合がいいことに関しては、呆れるくらいポジティブシンキングだ。 初めて恋人同士のキスをしたときも、そうだった。 それは人体錬成をしてだいぶ生活が落ち着いてきた頃のことだ。 リビングで食後のお茶を飲んでいた時、兄さんは突然キスしてもいいかとやけに真剣な顔で尋ねてきた。 僕はいつもの、過剰なスキンシップのキスだと思い込んでいたから、いいよなんて軽い気持ちで言ってしまったのだ。 そして僕らは、認識のズレに気付くことなく、キスをしてしまった。 濃厚で長いキスの後、唇が離れていく瞬間、満足そうにうっとりとする兄さんとは対照的に、僕はショックで硬直したまま動けなくなっていた。 そして、ようやく気付いたのだ。 兄さんは僕を、家族とは違う意味で愛しているのだと。
そんなこんなで僕は、今度こそ兄さんに流されてたまるかと意地を張っているのだ。 ・・・確かに、女の子の体で兄さんを受け入れることに抵抗がないわけじゃない。 でもその抵抗感も、以前ほど強くはない。 むしろ今はもう、男とか女とか性別のことなんて、どうでもよくなり始めてる。 兄さんと同じくらい僕の順応性も高いし、いつまでも悩んでいたって仕方ない。
それに、太陽のぬくもりや風の心地よさ、花々の香り・・・。 鎧だった頃の僕が、いくら求めたって手には入らなかったものたち。 世界が僕に与えてくれる感覚が、僕の心をうるおしていくから、それだけでもう十分だと思える。 そして何より兄さんが与えてくれる感覚が、僕の心を満たしてゆくから、それだけでもう幸せだと思える。
兄さんに見つめられて高鳴る鼓動。 ふたりで触れ合う体温。 赤く染まる頬の熱さ。 さらさらとかかる髪のくすぐったさ。 抱きしめてくれる兄さんの力強い腕の感触。 幸せすぎて、こぼれる涙・・・。 セクハラもとい過剰なスキンシップも嫌じゃないよ。 だって僕のこと、大切にしてくれてるからでしょう? 本当に僕のこと、愛してくれてるからでしょう? ねぇ、兄さん・・・・・・。
「・・・今、してもいいよ・・・?」 思いがけない僕の言葉に兄さんはちょっとの間硬直したが、すぐに顔を赤くして自分のシャツのボタンに手をのばした。 動揺しているせいか、ボタンはうまくはずれない。 ごめん兄さん、イマのそういうつもりじゃないんだ。
「・・・ただし、キスだけね。」 僕の言葉を聞いて、兄さんはかなり落ち込んだ。 ごめん兄さん、期待させるようなセリフ吐いて。 ごめん兄さん、しばらく焦らしてもいいかな? ・・・おもしろいから。
優しくほほに触れる兄さんの指。 そっと重なる温かい唇。 心が満たされてゆき、何もかも兄さんにゆだねてしまいたくなる。 こんな気持ちのことを、「幸せ」だというのかも知れない。
・・・・・・・・・と、ここでどさくさに紛れて兄さんの指が僕の胸に触れてきた。 あぁ、またいい雰囲気がブッ壊れたよ、兄さん。 僕がいいって言うまで待つって、さっき言ったのはどこのどいつだよ?! この嘘つき!!セクハラ腐れ兄貴!!
そして僕は、兄さんにキレーなボディーブローを決めた。
あぁ、一体いつになったらセックスまでたどり着けるんだろう・・・・・・?
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